中国経済は減速に向かう?
野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は「恒大問題の世界のリスクは金融危機よりも中国経済の減速」(9月22日付)の中で、リーマンショック級にはならないだろうとみる。中国政府のグリップが利いているからだ。
「恒大集団の経営危機への対応は、政府のグリップがかなり強く利くことから、中国国内の深刻な金融危機につながるリスクは低く、ましてやリーマンショックのようなグローバルな金融危機につながる可能性は低いだろう。 ただし、今回の問題が中国の不動産市況、住宅販売などに大きな打撃をもたらす可能性は高く、それは来年にかけての中国経済を減速させる可能性が十分に考えられるところだ。この経路を通じて、世界経済、世界の金融市場に相応の影響を及ぼすリスクには十分に配慮すべきだろう」
ところで、恒大集団の経営危機が表面化したタイミングが悪いと指摘するのは、りそなアセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト、下出衛氏である。「中国恒大集団の経営問題が世界市場へ与える影響について」(9月22日付)の中で、米国のFRBの資産買い入れ策の段階的縮小 (テーパリング)の直前に表沙汰になったことが問題だと指摘する。
「(中国 恒大集団の経営危機によって)米国市場が仮にこの先不安定な動きを続けた場合は、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策の正常化に影響が及ぶ可能性があります。9月21日、22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、資産買い入れ策の段階的縮小(テーパリング)の方向性を決定するものと予想されますが、実施開始についてはマーケットがある程度安定していることが前提になると考えられます」
テーパリングとは、中央銀行が超金融緩和状態から抜け出す過程で採用する出口戦略の一つで、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくこと。つまり、FRBの量的緩和策縮小に大きな影響を与えてしまうかもしれないというわけだ。そうなると、株価の大幅な下落を招くおそれがある。
テーパリングの直前というタイミングの悪さについては、冒頭の第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏もこう述べている。
「混乱のタイミングは、9月のFOMCの直前だった。FRBが年内にテーパリングを実施することは既定路線だと思うが、そこに中国発のショックが加わるのは不都合だ。年内開始のテーパリングは、米国内外でのドルの流通量を減らすものだ。過去、新興国から米国にドル資金が環流して、新興国通貨安が起こった。そこでは、ドルの流動性が低下する。仮に、恒大集団のデフォルトが起こると、中国企業のドル資金の調達はテーパリングと相まって、より厳しくなる。新興国のハイイールド債の利回りがより上がりやすい環境になることが懸念される。というのだ。
もともと危機時に中央銀行が市場(に出回る資金)をジャブジャブにする理由は、金融取引で信用リスクが顕在化しにくいようにする目的があった。コロナ禍での各国中央銀行の資金供給はそれを狙っていた。テーパリングは、その逆のことを始めようとする行為である。経営悪化などによるリスクプレミアムが金融取引に現れやすい環境をつくる。
米金融政策が中国発でのショックを受けて、テーパリングを遅らせるという観測があるが、おそらくテーパリングを11月から12月に遅らせたところで、中国など新興国で信用リスクが顕在化しやすくなる状況はおおむね変わらない。いずれにしても、2022年以降の火種になるだろう」