生き残りをかけた「地銀改革」! その光と影とは? ―地銀業界分析2021―(慶応義塾大学 八田潤一郎さん)【企業分析バトル】

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好転の兆しが見えるが...

   足元の地銀の決算を見ると、「地銀、今期6期ぶり増益へ 前期1割減益から一転」(日本経済新聞2021年5月17日付)と報じられ、好転の兆しがみえる。それどころか21年3月期は「コア業務純益の合計(単体)は約1兆2000億円と前の期から1割ほど増えている」という。

   コロナ禍による与信費用、構造改革費用が引き続き重い負担となるも、コア業務純益にみるように、意外にも決算は悪ないという印象だ。金融緩和による市況を考えれば、先に述べたような有価証券運用も寄与しているだろうが、大きな要因は実質無利子・無担保融資、別名ゼロゼロ融資だ。

   コロナ禍の経済を底支えするものだが、銀行としては、返済は信用保証協会が、利子は都道府県が補給しており、ほぼリスクなしで融資残高を大幅に増やすことができた。ただ、「ゼロゼロ融資の民間の取り扱いは3月で終了。これからは貸し倒れリスクを伴う自前融資で企業の資金繰りを支えることになる。」(日本経済新聞2021年5月21日付)と指摘されるように、今後は地銀自らリスクをとりながら、融資し、支えることが必要になり、不良債権化のリスクと常に隣り合わせだ。

   また、ゼロゼロ融資も実質無利子の期限があるのはもちろん、元本もいずれ返済が必要だ。そのときの経済状態によっては、貸し倒れリスクが大きい。例え、保証がついていて直接的な被害を被らないとしても、貸し倒れが相次ぐような経済状態を耐える体力はあるのか疑問だ。

   そして、「膨らみ続ける預金も地銀経営の重荷だ。」とされ、前述のゼロゼロ融資やコロナの各種給付金の影響が大きい。日銀のマイナス金利を避けるためにリスクをとって融資するか、リスクが少ないもののゼロ金利で融資するか、或いは前述した有価証券運用に頼るほかない。

   ただ、どの選択肢をとるかは難しい選択だ。リスクをとって融資をすれば、大きな損失になりかねない。例えば、非上場化から何かと話題に尽きないユニゾホールディングスだが、『ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方』(ブルームバーグ2021年2月10日付)と報道され、目安となる格付けも「日本格付研究所(JCR)は昨年12月、ユニゾの長期発行体格付けと債券格付けを非投資適格の「BB+」に引き下げた。」とされる。

このことをJCRのサイトで確認すると、度重なる格下げがなされており、厳しさが増しているとわかる。「コンコルディア46%減益に下方修正 ユニゾで損失50億円」(日本経済新聞2021年4月30日付)となるなど、この低金利下での損失は経営を揺るがしかねない。

   さらに、「政府借り入れに金融機関が殺到 応札倍率40倍近くに」(日本経済新聞2021年7月31日付)の見出しのもと、「大手・地銀ともに政府の特会入札に利ざやゼロでも加わり、資金をひとまず待機させる動きを加速している。と報道される。

   利ザヤがゼロでも諸経費を考えれば、厳密には赤字であろうし、この応札倍率が低金利下の厳しさを如実に表している。有価証券運用も金融緩和の追い風を受けて、株式市場を中心にマーケットは高値圏で安定するも、いつ相場が急変するか分からない。

   このようにただでさえ厳しい環境に重い経費負担、そして『大手行、振込手数料値下げへ 10月から「銀行間」半減で―地銀収益に影響も』(時事通信2021年03月18日付)と追い討ちをかける。

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