東京五輪・パラリンピックのスポンサー企業にとって、東京五輪は「じつは、骨折り損のくたびれ儲け」だったようだ。
そんな身も蓋もない調査結果を、野村総合研究所が2021年9月16日に発表した。その調査から見えてくるものは――。
テレビCMの印象度1位はコカ・コーラ
この調査は、「東京2020オリンピックは日本国民に何をもたらしたのか~独自データから読み解く、国民の真意と今後~」。その中から、スポンサー企業に関する報告をみていくと――。
新型コロナウイルスの感染急拡大と、東京五輪の開催に批判的な世論の高まりもあり、スポンサー企業のテレビCMが増え始めたのは、ようやく今年(2021年)7月になってからだった。このタイミングでも、積極的に出稿する企業と予定よりも控える企業とで対応が分かれた。
特に、最高位スポンサー企業であるトヨタ自動車は、テレビCMをやめ、自社メディア「トヨタイムズ」への出稿に切り替えた。
そうしたなか、大会開催中に東京五輪・パラリンピック関連のテレビCMの出稿量が最も多かったのはアサヒビールだ。2位に日本サムスン、3位が日本コカ・コーラ、4位 三井不動産、5位 日本生命保険、6位 みずほフィナンシャルグループ、7位 味の素、8位 ENEOS、9位 三井住友銀行、10位 グーグルと続いた=下表参照。
しかし、オリパラ関連CMの中で、消費者にもっとも印象に残ったのは「コカ・コーラ」だった。以下、2位にENEOS、3位 三井伊不動産、4位 アサヒビール、5位 日本生命保険、6位 パナソニック、7位 みずほフィナンシャルグループ、8位 日本サムスン、9位 セコム、10位 綜合警備保障の順となった=下表参照。
ENEOSはアサヒビールの3分の1の出稿量なのに、「印象度」で抜き去ったことになる。
東京五輪・パラリンピックのスポンサーになったことによって、企業の好感度はアップしたのだろうか――。スポンサー企業に対して「好感度を持っており、その企業の商品やサービスを使いたい」と答えた人の割合は、開会式翌日の7月24日の調査で27.1%だった。閉会式当日の8月8日の回答は23.9で、若干減る傾向が見られた。
しかし、「好感度を持っているが、その企業の商品やサービスを使いたいとは思わない」という回答も含めると、「好感度に関しては大きな差は見られなかった」と野村総研は分析した=下図参照。
五輪期間中はむしろ「認知度」がダウン
スポンサーになったことによって、過去6年間に企業の「認知度」は全体的にはアップする傾向を示した。下のグラフは最高位スポンサーである「ワールドワイドパートナー」と、その次のランクの「ゴールドパートナー」の認知度の推移だ。
ワールドワイドパートナーには、トヨタやコカ・コーラ、パナソニック、オメガ、サムスンなど14社、ゴールドパートナーにはアサヒビール、アシックス、キヤノン、東京海上日動、NTT、NECなど15社が含まれる。
2015年から昨年5月頃のピークまでは順調に認知度が上昇していった。しかし、昨年5月に新型コロナウイルスの第1波が襲来。最初の緊急事態宣言が出されてから下降線をたどる。第2波、第3波と度重なるコロナ禍の猛威の前に、打撃を受ける企業も出たからだ。
結果として、スポンサーとしての認知度は、むしろ2021年7月に東京五輪が始まる頃には下降線をたどってしまった=グラフ参照。
ところで、スポンサー企業の商品も含めて、人々は東京五輪を機に何か購買をしたのだろうか。「オリンピックを機に特に買ったものはない」という人が91.7%に達した。買ったもののなかで一番多かったのが「Tシャツ、キーホルダー、ポスターなどの大会関連グッズ」で2.6%、次いで多かったのが「大型テレビ」(1.7%)だ。1.7%という数字から、野村総研では全国で約90万台が売れたと推計している=下図参照。
こうした結果から、東京五輪はスポンサー企業にいったい何をもたらしたのだろうか。野村総研は、こう結論付けている。
「東京五輪のスポンサー企業であることによる商品購入やサービス利用の高まりは、大会終了時点では必ずしもみられていない傾向。オリンピックのスポンサー企業への効果は、短期的にはみえない影響があると想定されるため、今後も継続的にウォッチしていきたい」
つまり、現在のところ、スポンサー企業であることのメリットを探すのは難しいということのようだ。
なお調査は、主に全国の20歳~69歳の男女計2000人を対象に、東京五輪の開会式翌日の2021年7月24日と閉会式当日の8月8日にインターネットで実施して比較した。
(福田和郎)