東京五輪は「ガッカリする」と多くの人が予測していた
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、研究チームの榊原良太准教授に話を聞いた。
――そもそも、この研究のきっかけは何ですか。
榊原良太さん「コロナ禍のマスクの着用を社会心理学的に考察していました。感染したくないからか、同調圧力によるものかなどと。その延長線上で、本来、自国開催で熱狂的に喜ぶべき東京五輪に関して、なぜこんなに賛否が分かれて冷ややかなムードが漂っているのか、そして、人々の気持ちは実際に五輪が始まったらどう変わっていくのか。
コロナ禍が人々に与える影響を東京五輪というビッグイベントを対象に心理学的に調べてみようと思いました。その際、ひとつの仮説を立てました」
――仮説とは何ですか。
榊原さん「心変わりの仮説です。心理学で『感情予測』といいます。たとえば、旅行やデートに行く前、『きっと楽しいだろうな』と自分の感情を予測します。旅行が長くて遠い場所ほど、デートの相手がステキな人ほど『楽しいだろうな』という期待値が高まります。『過大な予測』ですね。
しかし、実際に旅行やデートに行くと、ガッカリしたという例もありますよね。だから逆に、素晴らしく思える旅行やデートほど、『そんなに楽しくないかもしれない』と予測する人も多いのです。それを『過小な予測』と言います。私たち研究チームは、東京五輪に関してはみんな『過小な予測』をするだろうと仮説を立てました。つまり、みんな『どうせ、ガッカリするだろうな』と予測すると考えたわけです」
――東京五輪は超ビッグイベントなのに、なぜ人々は始まる前から「ガッカリするだろうな」と予測するのですか。
榊原さん「無観客になり、規模が小さくなりました。コロナの感染拡大の心配も収まりません。仮説どおり、始まる前の人々の期待値は全般的に低いものでした。ところが、いざ始まるや、日本チームの金メダルラッシュで大いに盛り上がりましたね。
じつは私たちは、もう一つ仮説を立てていました。東京五輪にネガティブだった人、つまり反対派の人ほど最初の『感情の予測』は低いだろうということです。最初から、『どうせガッカリするだろう』とクールに構えていた。しかし、東京五輪が盛り上がれば、その分、『意外と面白いジャン!』と感動が跳ね上がる度合いが高まるだろう、という仮説です」