オフィス用品通販最大手、アスクルの株価が2021年9月17日に一時、前日終値比81円(4.6%)高の1824円まで上昇し、約2か月半ぶりの高値となった。
前日発表した2021年6~8月期(第1四半期)連結決算で売上高、各利益とも第1四半期として過去最高を更新したことが好感された。
20年のコロナ禍が追い風となった通販業界について、「コロナ2年目」の今年は反動減ないし伸び悩みを見込む向きもあるが、増収増益の実績を示したことが歓迎された。アスクルは22年5月期通期の見通しについて増収増益を維持している。9月21日の終値は1716円。
医療・介護や製造業向けの専門商材を拡大
それでは、アスクルの第1四半期決算の内容を見てみよう。売上高は前年同期比2.3%増の1024億円、営業利益は9.4%増の32億円、最終利益は43.3%増の21億円だった。
アスクルの主力は法人向け通販サービスが中小向けの「ASKUL(アスクル)」と大企業向け「SOLOEL ARENA(ソロエルアリーナ)」)で、合わせて売上高全体の8割超を占め、個人向けの「LOHACO(ロハコ)」などが1割台だ。
法人向けは、前年同期に特需とも言える状況だった手指消毒液やマスクといった感染対策商品については反動減となったものの、飲料等の生活用品商材、eコマース用の梱包資材などへの需要が強く、売上高は前年同期比2.8%増とプラスだった。
戦略的に強化している医療・介護業種や製造業向けに専門商材の品揃えを拡大したことも功を奏した。在宅ワークの浸透で前年同期に落ち込んだ一般的なオフィス用品需要が回復したことも好影響となった。増益には配送効率化などの固定費削減も寄与した。最終利益が大きく伸びたのは前年同期に配送子会社売却に伴う特別損失を計上した反動があった。
筆頭株主ZHDと連携して個人向けを強化
アスクルが近年力を入れているのが個人向けだ。ヤフーなどを擁する筆頭株主Zホールディングス(HD)との連携を深め、2021年6月には「LOHACO本店」をヤフーの提供するシステムに移行し、新本店としてリニューアルオープンした。
集客、決済などのサイト運用にZHDの基盤を活用することで顧客拡大とコスト削減を図る。リニューアル当初は販売促進活動を抑制したため売上高が前年割れしたが、ヤフーやソフトバンクと連携した大型販促を再開した結果、8月に再成長軌道に乗り、同月の売上高は前年同月比10.7%増を記録した。
アスクルは1993年に文具メーカー、プラスの中小企業向けカタログ通販事業としてスタート。97年に分社し、2012年の「LOHACO」の立ち上げを機に旧ヤフー(現ZHD)と資本提携した。21年5月20日時点の筆頭株主ZHDの持ち株比率は44.94%で2位プラスが10.08%。個人向け事業が軌道に乗らないことなどから、ZHDは2019年、プラスで事業を担当していて、そのままアスクル社長に就いた実質的創業者といえる岩田彰一郎社長(当時)を株主総会で退任させるという強硬手段に出て、ZHDが経営の主導権を完全に握り、今日に至る。
コロナ2年目の第1四半期はひとまず増収増益となったが、8月の単体売上高で法人向けが前年同月比2.3%減とマイナスに転じたといった不安材料もある。ZHDと強く連携する個人向けの伸張が今後の業績改善のカギを握りそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)