電動車で「世界の勝者」目指すトヨタ EV巻き返しへ注力するのは次世代の「全固体電池」

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   トヨタ自動車が、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などに搭載する電池に関する戦略を発表した。2020年代後半に電池の生産コストを、現在の半分にすることを目指し、生産と開発に計約1兆5000億円を投資するというものだ。世界的な「脱炭素」の動きで需要が急増する電動車での勝者を目指す。

   2021年9月7日に「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」と銘打ってオンラインで開催され、前田昌彦執行役員CTO(最高技術責任者)らが1時間半にわたって説明し、質問に答えた。

  • 次世代の「全個体電池」でEVの出遅れを取り戻す!?(写真は、トヨタ自動車の豊田章夫社長)
    次世代の「全個体電池」でEVの出遅れを取り戻す!?(写真は、トヨタ自動車の豊田章夫社長)
  • 次世代の「全個体電池」でEVの出遅れを取り戻す!?(写真は、トヨタ自動車の豊田章夫社長)

トヨタの電動車は「全方位戦略」

   その内容を詳しく見る前に、自動車メーカーの「電動車」について確認しておこう。バッテリーだけを動力源として走る電気自動車(EV)と、ガソリンエンジンとバッテリーを併用するハイブリッド車(HV)、HVの電池を増量して充電に対応するプラグインハイブリッド車(PHV)の総称で、「脱炭素」ということでは、このほかに水素によって発電しながら走る燃料電池車(FCV)が重要戦力として加わる。

   国、地域の規制に応じて、どの電動車に力を入れるか、メーカーの戦略が問われるところだが、トヨタは「全方位戦略」といわれるように、幅広く対応する考えだ。

   EV一本やりに舵を切るメーカーも多いなか、再生可能エネルギーが普及している地域ではEVや燃料電池車の投入を加速させるが、石炭火力などの発電割合が高い地域ではEVに切り替えても発電段階の二酸化炭素(CO2)排出が多いので、むしろHVでCO2排出を抑えながらガソリンも併用するのは現実的との認識だ。

   このため、EVシフトを強めるライバル各社と比べ、トヨタのEV出遅れを指摘する向きもあった。

   こうした懸念を吹き飛ばすのが、今回の発表だった。現在の電動車は基本的にリチウムイオン電池やニッケル水素電池を搭載しており、EVの場合、コストの3割、あるいはそれ以上を電池が占めるといわれる。この電池分野でトヨタは、自社がいかなる強みを持つか、そして今後どのように取り組んでいくかを明らかにした。

   まず、電池の生産には1兆円を投じる。EV向け電池の生産ラインを、25年までに10本ほど新たにつくり、その後も年間10本以上のペースで整備し、現在の2本から30年までに計70本に増強する。

   研究開発には5000億円を充てる。電池自体では安価な料開発のほか、生産プロセスを最適化し、外装を一体化させた電池構造を採用することでコストを低減。車両開発でも、走行時の抵抗を抑えるなど電動車に適した構造を追求して車の消費電力も下げる。これらにより、1台当たりの電池コストを、20年代後半には、22年発売する新型EV「bZ4X」の半分へと引き下げるという目標を新たに示した。

次世代の高性能電池が「全固体電池」だ!

   注目すべきは、次世代の高性能電池として期待される「全固体電池」だ。現在のニッケル水素電池やリチウムイオン電池は電解質に液体を使うが、全固体電池はその名の通り固体の物質を使う。重量当たりのエネルギー密度が高く、充電時間を短くし、航続距離も長くすることができる。

   固体のため、ショートしにくく発火リスクが小さいのも利点で、世界の自動車メーカー、電池メーカーが実用化にしのぎを削っている。

   トヨタは全固体電池の開発で世界の先端を走っているとみられている。今回、電池関連の特許出願件数が世界のトップレベルの電池メーカー6社を抑え、「業界トップクラス」とアピールしたのも自信の表れだ。2020年6月に全固体電池を搭載した試作車を造ってテストコースで走行試験を開始している。

   ただ、現時点で「技術的課題がかなりある」ことも認めている。特に問題なのが電池の寿命が短いこと。電池の充放電を繰り返すと固体電解質が収縮し、イオンが正極と負極の間を通りにくくなって、電池の劣化が早まってしまう。このため、収縮しにくい材料の開発に全力を挙げているという。

   それでも今回、従来からの目標である「2020年代前半に全固体電池をHVに搭載」する計画を改めて示した。頻繁に充電・放電が必要なHVに適しているからだ。また、HVでの電池は充電量の範囲が狭いので、電池が比較的劣化しにくいことから、HV用なら実用化は可能との読みがあるようだ。

   トヨタの電動車販売は2020年度が約215万台で、HVが大半を占めた。30年にはEVやFCV200万台、HVやPHV600万台とする目標だ。

   ライバル他社は、日産自動車が30年代早期に、主要市場の新車はすべてEVを含む電動化車両とする。ホンダは、4月に「40年をめどに(HVも含む)エンジン車を全廃」すると宣言し、米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携し、EV車台の共用化を進める方針。欧州ではエンジン車が事実上完全に禁止される見通しで、独フォルクスワーゲン(VW)などがEV専業の方向に進む。

   各メーカーは各地域の規制をにらみながら、合従連衡を含め、対応していくことになるが、いずれにせよ、電池をめぐる競争が大きなカギを握るのは間違いない。トヨタの今回の発表は、電池開発の優位性を語り、出遅れも指摘されるEVでの競争にも勝ち抜けるとアピールするものになった。(ジャーナリスト 済田経夫)

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