明治大学の経営大学院で金融論の講座を担当している。
今まで主に銀行員などの金融のプロあるいはプロ志望の人に向けて授業をしてきたが、2021年の春学期は金融関係の仕事に従事している学生が少数だったこともあり、内容を大幅に変更して個人の資産運用についての時間を増やすことにした。
その講義で最初に出した課題は、次のようなものであった。
「35歳のあなたは1億円を突然手にした。あなたは安定した職についているので、家賃も含めてそれを使う必要はなく、他に財産も借金もないとする。この1億円について先を見据えた運用をしていきたい。どのような資産に投資するか内訳を答えなさい」
安全重視のポートフォリオでは「相場上昇に乗れない」?
我々は「いくつかの条件が(たまたま)合えば儲けられるが、そうでなければ必ず損する」というような状況に自分を置くべきではない。
世界の不確実な変化に対応できるような態勢を築くこと、これが投資の最大の目的である。食事も勉強もスポーツも人間関係も......。偏ってはダメで、さまざまなものをバランス良く取り入れることが必要だ。そうすれば心身の健康が得られるだろう。投資もまったく同じであり、バランスの良いポートフォリオを築くことにより、成功の道が拓ける。リスク分散は投資のABCである。
次に、学生の答えで二番目に多かったのが超保守的とでも言うべきポートフォリオだ。以下のような配分である。
日本国債30%、預金20%、金20%、米国債20%
これは株価や不動産価格が大きく下落してもびくともしないポートフォリオだ。これで20年30年置いておいても1億円が大きく減っていくという可能性は非常に低いであろう。安全性重視の投資スタイルということだ。下手に株式や不動産などを購入して損をしては大変だから、次善の策でこれで良いのでは? と思う日本人は多いと思う。
しかし、これにも大きな問題がある。それは相場の上昇に乗れないということである。
株式相場は、長期的には上昇していくことが見込まれる。それは基本的に経済が発展していくということであり、その背後には技術の進歩がある。技術が進歩すれば効率が上がり、それが経済を押し上げる、という流れだ。
資本主義下で生産活動を行っているのは企業である。企業がモノとサービスを提供してくれるおかげで我々は生きていける。産業革命以来、人類は急速に豊かになってきたが、それは企業の収益が上がってきたおかげである。
その富の分け前にあずかるのに最も直接的な方法が株式を買うということだ。それによって我々は企業の投資家(オーナー)となって企業の果実(利益)を得られるのである。長期投資に、株式投資を基本に考えるべきなのはそのためだ。
株価は企業の将来の利益を反映する
ここで株式市場の歴史を振り返ってみよう。
下のグラフは米国を代表するダウ平均株価の変遷を示したグラフである。左の目盛り(10、100、1000、10000)に注目していただきたい。これは指数関数であり、10倍になるのは「横の太い目盛り」。株価は数年単位で見ると何パーセントというよりは、何割あるいは何倍というスピードで上昇してきたのである。たとえば1980年から過去約30年間に約10倍に増えた。
参考リンク: 米ダウ平均株価のグラフ
もちろん今まで増えたからといって今後も増えていくという保証はない。しかしITの進展などにより、経済は今後さらに加速度的に発展していくと予測してもおかしくはないだろう。AI(人工知能)、医療技術の進歩、ロボットなどによって、世の中はさらに高度化し便利になっていくだろうし、中国やインドをはじめとする新興国がさらに豊かになるのは、ほぼ確実だろう。それが世界経済の底上げに貢献するに違いない。
株価というのは企業の将来の利益を反映するものなので、経済が全体として良くなるにつれて、株価も上がっていくだろう。戦争や天災などの問題があることは忘れてはいけないが、長い目で見れば我々はそれらを乗り越えていってより良い将来が来るだろう。
そのような「リスクを認識しつつも、全体的には楽観的な見方をする人」こそが投資に向いている人であり、人生の勝ち組になれる人だ。(小田切尚登)
(つづく)