かつては新型を発売するたびに、予約受付で長い行列をつくった「iPhone」(アイフォーン)。2021年9月14日、米アップルはiPhoneの新製品「13」シリーズを発表した。
ところが、「映画が撮れるほどカメラ性能が進化した」と胸を張るアップルに対し、ネット上では、「指紋認証がないなんて信じられない」「買うなら安くなる中古機種だ」と残念がる声が圧倒的だ。
もうiPhoneの買い替えビジネスは限界にきているのか――。
コロナ禍でマスク着用の今、指紋認証がないとは
今回の「iPhone13」の発表を、辛口で報道する大手紙は少なくなかった。たとえば、朝日新聞デジタル(9月15日付)「指紋認証なく残念がる声も 新型iPhone、 マスク定着の日本」は、指紋認証機能がなかったことを問題視した。
「iPhone13シリーズは、カメラ機能などの充実が目を引く。ただ日本のユーザーからは残念がる声も出ている。ロック解除のための指紋認証機能が搭載されず、顔認証のみだったからだ。コロナ対策のマスク着用が定着している国ならではの反応ともいえそうだ。
『コロナ禍も2年目。開発期間を考えると、そろそろ指紋認証にも対応するかと思ったが......』。ITジャーナリストの石野純也氏はアップルの発表を受けて少し驚いた。ただ発表前には指紋認証が見送られるといううわさもあり、予想の範囲内ではあったという。『アメリカでは指紋認証へのニーズが日本より低いのかなと思う』と話す」
朝日新聞は続ける。
「顔認証機能は2017年発表の『iPhoneX』から搭載され始めた。画面を見つめるだけでロックが解除できて便利だが、マスク姿では認証されづらく、その場合はパスコードを手入力する手間がかかる。日本ではコロナ禍の以前から、花粉症でマスクを着用する人が多いため『不便だ』という声が出ていた。アンドロイド端末では指紋認証と顔認証が両方搭載されているものもあるが、iPhoneは片方のみ。石野氏は『両方対応するとどうしてもコストが高くなるうえ、指紋と顔のどちらでロック解除するのか操作が若干分かりづらくなる。そのあたりをアップルは嫌ったのでは』と推測する」
早くも安くなる旧機種の人気がうなぎのぼり
こうしたiPhone13の「不評」が影響して、早くも安くなる旧機種の人気が上がっていることを産経新聞(9月15日付)「iPhone13、熱気欠く消費者 旧機種に買い得感」が伝えている。
「iPhoneの新機種『13』シリーズに対する日本の消費者の反応は熱気に欠けている。アップルが強調する(カメラ機能などの)性能アップも目立った進化とはみられておらず、新機種発売に合わせて値下げされる旧機種の『12』シリーズのお買い得感が際立つ。『性能は上がっているけど、ワクワク感はない』。ヤフーが9月15日からネット上で始めた新機種を買うかどうかを問うオンラインアンケートでは、同日夕方時点で約6割が『買いたくない』と回答する結果となっている」
アップルが強調した「カメラ機能の強化」について、産経新聞は厳しい見方を、こう示した。
「アップルは13シリーズの発表で、カメラ性能の強化や他社製品との演算処理能力の差などを前面に押し出した。裏を返せば、これまでアップル自身が携帯電話市場を塗り替えてきたような画期的な新機能を生み出せなくなった証左でもある。第5世代(5G)移動通信システムへの対応についても、日本向けモデルでは高速通信が可能な『ミリ波』と呼ばれる高い周波数帯は使えず、昨年発売の12シリーズからの進化はなかった」
その代わり、旧品種が安くなることほうが消費者の関心を集めていると皮肉るのだった。
「アップルは13の発表に合わせ、旧機種となる12シリーズを7000円~1万2000円程度値下げした。中位モデルの『12』の値下げ後の価格は8万6800円からで、新機種の中位モデル『13』の価格(9万8800円から)と比べて1万円以上安い。今後、携帯大手4社も同様に12シリーズの値下げを発表するとみられ、わずかといわれる性能差を優先して13を選ぶかは消費者にとって迷いどころだ。
ライバルの韓国のサムスン電子や中国の小米科技(シャオミ)は、広げると大画面になる『折り畳み』モデルなど新しいスマホの形を模索しようと必死だ。一方、アップルは腕時計型端末『アップルウォッチ』やワイヤレスイヤホンなど周辺機器の新機種を充実させ、顧客を囲い込む戦略をとる。しかしiPhoneの新機種の魅力がなくなることは、中長期的な『アップル離れ』の悪循環が始まってしまう恐れもある」
と、産経新聞は警鐘を鳴らしている。
アップル開発者の浮き世離れがうかがえる
インターネット上でも「残念だ」「ガッカリした」という声が圧倒的に多い。ヤフコメでは、ITジャーナリストの篠原修司氏がこう説明した。
「iPhone 13の目玉機能はカメラ性能の向上です。逆に言えばそれ以外に目新しいものはなく、よりきれいな写真が撮りたい、シネマティックモードを使うような映像を撮りたい人にしか魅力的には映らないでしょう。とくに去年、iPhone 12を買った人からの買い替え需要は少なそうです。ただし、iPhone12miniやiPhone12を使っていてストレージがもう限界ギリギリの人は512GBへの買い替えが選択肢に入ります。iPhone14からminiが消えるという予測も流れているため、『大容量の小さいiPhone』が欲しい人はminiの購入を検討してもよいと思います」
カメラ機能の向上など誰が求めているのか、なぜ指紋認証をつけなかったのか、と疑問を投げかける人が非常に多かった。
「どれだけの購入者がiPhoneで映画を撮ろうと思うのでしょうか? これだけの性能を必要としているでしょうか? そしてこれが一番大事なことと思いますが、Androidが技術的に軽々クリア・搭載しているのにも関わらず、コロナ禍の中、指紋認証のニーズをなぜスルーするのでしょうか? 消費者の欲しいものを作らず、自分たちが売りたい商品を世に送り出す。今のアップル開発者の浮き世離れがうかがえます。最後に私事ですが、iphoneSE2で満足しています、いや、ホント」
「指紋認証もUSB-Cもつかず、とはちょっと信じられない感じ。しかもどちらもiPad miniにはついているという仕打ち。求めるクオリティーの高さが開発に時間を要するのは理解しているが、これだけ変化の早い時代(ライバルメーカーの動きは早い)にそこまでこだわるのは顧客ニーズとかけ離れている気がする。もう年一回発表の新作iPhoneのビジネスモデルって、崩れているのじゃないかなぁ」
「毎回新型が出るたびにカメラがこれくらい進化しました、画素がこれくらい上がりました、と宣伝されているけど、あまり必要性を感じません。必要な人にはもちろん必要なのでしょうけど。あと、顔認証が不便すぎる。寝る前に電気消した状態で使う時、マスクしている時、眼鏡をかけている時、本当にイライラします。昔使っていたSEのほうが断然よかった」
「カメラ性能の向上だけか。以前は新型一つひとつにワクワクしたけど、これなら新型である必要は自分にはないなあ。最近は旧型iPhoneのマークダウンもほとんどしなくなったし、お得感がないな。iPhone12が5万円くらいまで下がってくれたらいいな」
「不思議なのは、アップルがあるカリフォルニア州も再びマスクを義務化する動きがあります。そんな中でなぜマスクに対応した認証システムを載せないのか意味が分かりません。時価総額275兆円の会社が中国(華為、Xiaomiなど)、韓国(サムスン)、日本(ソニー)の会社に遅れをとっているのが謎すぎます。ソニーは電源ボタンに指紋認証を実装しています。iPad Airや今回発表された新型iPad miniでもこの技術は実装済みです。なぜこれをiPhoneに搭載しないのか」
「10数万円でiPhone買い替えるならPC買いたい」
もう旧品種を使い続けるしかない、という人が多かった。
「昔は2年に1回買い替えていたけど、もう今使っているiPhone 8がダメになるまで買い替えません。ちょうど丸4年だが、別になんも問題ないもん。電池も無償交換したばかりだし。5Gなんてまだまだ中継局が少なすぎで、この程度のエリアじゃとても5Gにする気ならない。それにスマホで映画みたいな動画を撮る気もないしね。十数万円使う気にならないよ。iPhone 8で当分充分」
「iPhone7を使っているので、そろそろ機種変をしようと思いながら、12が出た時に指紋認証がなかったから、次を待とうかと思って見送りにした。13にも指紋認証がないなんて、ショックすぎ。でも、また次を待つのも長いし、もういい加減に機種変更しようとは思うが、13にしようか、価格が下がるなら12にしようか、価格次第では12Proにしようか......。こういうのに疎すぎて悩みます」
iPhone13は価格が高すぎるという意見も多かった。
「熱気を欠くもう一つの理由は価格だと思う。他の国は所得が増えているからiPhoneが高くても買える。それに比べて日本は先進国の中でも最低。所得が全く増えていない上に値段が上がっているから買えない人が多い。発売日に家電量販店に行ったら『iPhone13在庫あります』とアピールしていたよ」
「Androidの面白さって、iPhoneよりも低価格なのにワクワクドキドキするような新機能が追加され、高性能でもがんばれば庶民でも十分手が届く価格設定。競合他社が多いので切磋琢磨して次から次へと面白い端末が出てくるところ。もちろん、iPhoneの素晴らしさはデザインとAndroidにはない機能やサービスだと認めるけど、そのすべてを打ち消すほどの高価格帯設定。iPhone買うならPC買い換えたいと思う。スマホがいくら好きでも、10万円以上を2年ごとに買い換えるのは私の経済力では無理」
(福田和郎)