自民党の河野太郎行政改革担当相が総裁選への出馬を正式に表明。すでに立候補を表明している岸田文雄元外相と、高市早苗前総務相との「激戦」が予想されるなか、なぜか海外メディアの「河野推し」が目立ちます。
国内の下馬評とはちょっと異なる海外評。出馬が総裁選を「ひっくり返した」とまで称される、「河野推し」の背景を探ってみました。
政界のプリンスで英語を自由に操る「ツイッター界のスター」
自民党総裁選をめぐる海外報道では、河野氏が他の候補者を引き離して「圧倒的な存在感」を誇っています。出馬表明は岸田氏、高市氏に後れを取ってしまいましたが、注目度ではライバルたちを大きくリードしているようです。
Japan's Taro Kono upends race for next premier
(日本の河野太郎氏、次期首相レースを一変させた:ロイター通信)
upend:一変させる、ひっくり返す
ロイター通信は、河野氏が高校生の時に米大使館のパーティーに参加して、「下手くそな英語」でアピールして米国留学を実現したという「強心臓エピソード」や、菅首相と比較して「tight communicator」(密なコミュニケーションがうまい人)だ、という人物評を紹介しています。
どちらかと言えば、政治家としての手腕よりも米ジョージタウン大学卒で英語が堪能なことや、SNSを積極的に活用してツイッターのフォロワーが230万人にのぼるといった点に注目しているようですが、「首相第一候補」として具体的に「5つの事実」を上げていました。
POLITICAL BLUE-BLOOD
(政治家としての毛並みの良さ)
KNOWN AS A MAVERICK
(異端者としての存在)
TWITTER STAR
(ツイッター界のスター)
U.S.-EDUCATED
(米国での教育経験)
ORGAN DONOR
(父親に臓器提供)
確かに、著名な政治家一家に生まれ育ち、米国の大学を卒業して英語を自由に操り、古い伝統に立ち向かうツイッター界のスターで、臓器提供をするほどの父親思い、という「事実」は世界的にも好印象を与えそうです。
また、河野氏の英語力については、「日本の政治家としてはめずらしく、英語でインタビューに応じることができる」と評価している報道がありました。私も英BBC放送のインタビューで河野氏の英語力に感心をした一人ですが、政治的な実績やポリシーよりも「結局、英語力が評価ポイントなのか?」と、ちょっと残念に思ってしまいました。
それだけ日本の政治家の英語力がひどい、ということでしょうか。
次期首相予測に「派閥」や「長老」 海外メディアはスルー
海外メディアの「河野推し」は、石破茂元幹事長が総裁選への不出馬と「河野氏支援」を表明したことで、さらに弾みをつけたようです。
Kono gains momentum in Japan PM race; report says rival out
(ライバルの不出馬で、日本の首相争いで河野氏の勢いが増した:ブルームバーグ通信)
gains momentum:弾みがつく、勢いづく
各種世論調査で「次期首相にふさわしい人」の上位を占めてきた「人気者」の石破氏が河野氏支援にまわったことは、すでに「the most popular option」(一番人気がある首相候補)である河野氏にとって強力な追い風になる、という見立てです。
ブルームバーグ通信は、一般国民は総裁選に参加できないが、国民からの人気の高さは「総裁選びのカギを握るだろう」と伝えています。
こうしてみると、海外メディアの次期首相評は、アピール力や発進力といった「イメージ」や、世論調査の結果のような「国民人気」が評価のベースになっていて、意外とシンプルだな、というのが率直な印象です。
時に、国民人気やイメージとはかけ離れた動きを見せる自民党内の派閥争いや長老政治の影響力はあまり考慮しないのでしょうか?
海外メディアの報道を見るにつれ、国民とは遠いところで繰り広げられる総裁選の「異常さ」が浮き彫りになっているように思えます。
それでは、「今週のニュースな英語」は「gain momentum」(勢いづく)を使った表現を紹介しましょう。
Our business gains momentum
(ついに、私たちのビジネスが勢いに乗ってきた)
「strong」(強い)という形容詞を使って強調した例です。
Our business gains strong momentum
(ついに、私たちのビジネスが強い勢いに乗ってきた)
「lose」(失う)という動詞を使うと逆の意味になります。
Our business loses momentum
(私たちのビジネスが勢いを失ってきた)
現時点では、誰が自民党の次期総裁になるのかゴールは見えていませんし、衆院選を控えて野党側も共闘態勢を明確にしています。日本の政治が「momentum」(勢い)を得て活気づくのであれば、面白いことになりそうです。(井津川倫子)