株価が急上昇している。ついに2021年9月14日、日経平均株価の終値は3万670円10銭をつけ、1990年8月以来、約31年ぶりの高値となった。
31年前といえば、人々は経済成長に浮かれ、この先もどんどん生活が豊かになると信じて、財布の紐はゆるかった。
今、誰がそんな景気の良さを実感しているだろうか。それなのに、なぜ株価が急騰するのか。多くのエコノミストの分析から探ると――。
バブル期の年収は今より44万円高かった!?
「お金をもうけて外で遊んで、いい車を買って、美味しいものを食べる。わかりやすい派手な暮らしがもてはやされた。(各地でショッピングモールやレストランが開店、テーマパークのアトラクションが新設されるなど)ネタに事欠かない時代。マンション価格も上がるのが当たり前だった」
こう語るのは、東京新聞(9月15日付)「株価バブル後の最高値更新 31年前とどう違う」の取材に応じたコラムニストの泉麻人(いずみ・あさと)さん(65)だ。「ナウのしくみ」などバブル期の若者の生態を面白おかしく紹介した連載で一世を風靡した。
東京新聞は当時(1990年)と現在を、経済データで比較している――。
まず、年間所得(国民生活基礎調査より)。1990年は1世帯当たり596万6000円。最新の2018年では552万3000円で、90年より44万3000円も少ない。次に物価(消費者物価指数より)。2020年を100とした場合、90年は89.6だから、物価はバブル当時より11.4%上昇した。所得は下がったのに物価水準は上がったことになる。
雇用はどうか。完全失業率は90年8月が2.0%だったのに対し、今年7月時点で2.8%。有効求人倍率(年度平均)は90年度が1.43倍で、20年度は1.10倍だ。コロナ禍の影響もあり、求人が減って失業が増えたことがわかる。
ちなみに、NHKニュース(9月15日付)「日経平均株価 終値3万670円10銭 およそ31年ぶりの高値」によると、90年の経済成長率は実質で4.9%。今年は4月~6月の成長率を年率に換算すると1.9%で、大きく下回る。主要企業の春闘の賃上げ率は90年が5.94%だが、今年は1.86%にとどまる。賃上げ率は3分の1以下だ。
つまり、これらの数値から、バブル当時は経済成長に応じて人々の賃金も大きく伸び、欲しいものも買えて、景気のよさを実感しやすかった。それに比べて現在は、国民全体が貧しくなっていることがはっきりわかる。それなのになぜ、株価がバブル当時より高騰しているのだろうか。