スポーツ用品メーカーのアシックスの株価が2021年9月8日まで7営業日連続で上昇した。終値でみると、7日間で384円(16.6%)伸び、8日に2699円となった。
海外で業績が大幅改善した8月13日発表の2021年6月中間連結決算を受け、8月から9月にかけて内外の証券各社が目標株価を引き上げていることが後押ししているようだ。9月14日の終値は前日比18円安の2643円だった。
コロナ禍で高まるランキング需要
目標株価の引き上げは、8月18日にみずほ証券が2700円を3400円に、同日に岩井コスモ証券が2800円を3100円に、9月8日にゴールドマン・サックス証券が3000円から3200円に、と相次いだ。
ゴールドマン・サックス証券は、「主力のランニングシューズに改めて注力していることの効果が織り込まれていない」との判断が主な理由。こうした各社の指摘が、「世界で高まる健康志向を成長の原動力にできる」と投資家に期待させている。
それでは2021年6月中間連結決算の内容を確認しておこう。売上高は前年同期比42.6%増の2094億円、営業損益は239億円の黒字(前年同期は38億円の赤字)、最終損益は123億円の黒字(前年同期は62億円の赤字)だった。
コロナ禍で各種競技大会の中止や規模縮小が多かったことなどの要因から赤字に沈んだ前年から一転して黒字化を果たした。
その背景には、売上高の約半分を占める主力のランナー向けシューズ部門が北米、欧州、中国など海外で躍進し、前年同期比54.2%の増収となったことがある。ちなみに、神戸発祥で今も神戸市に本社を置くアシックスは海外展開が進んでおり、近年の海外売上高比率は7割台で推移している。
野村証券は5月のリポートで「新型コロナを契機にランニング需要が高まるなか、(シューズの)主力モデルが(業績改善を)けん引した」と記していた。
海外で好調な「アシックス ストライプ」のシューズ
長距離トップランナー向けのランニングシューズではナイキの「厚底」ものが会場を席巻することが多いが、アシックスも負けていない。21年3月に反発力のある新モデルを投入し、東京五輪で使った選手もいたようだ。アシックスは、「着用したトップランナーから90を超える自己ベストが出た」としている。
ランナー向けシューズ以外の部門は競技スポーツ向けシューズ、スニーカー、スポーツウエア、ウォーキングシューズなどであり、それぞれ欧米を中心に海外で好調なため中間決算は増収だった。
アシックスは鬼塚喜八郎氏が1949年に「鬼塚商会」として創業。バスケットシューズが最初の競技用スポーツシューズだった。77年にスポーツ用品、ウエアメーカー2社と合併し「アシックス」が誕生。社名は古代ローマ時代の風刺作家、ユベナリスが残した「もし神に祈るならば、健全な身体に健全な精神があれかしと祈るべきだ」という意味の言葉の頭文字「ASICS」から名付けたそうだ。社内公募を経て決まった、シューズにあしらわれる「アシックス ストライプ」はアシックスを象徴するデザインとしてユーザーに親しまれている。
足元、主力生産地のベトナムで新型コロナウイルスの感染拡大のため、思うように工場を稼働できていないといったマイナス面があるものの、海外でランニングシューズが売れるのは圧倒的な強み。そのことを好感する海外投資家から一段の買いが入る可能性もありそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)