「専業主婦なのに夫の転勤について行きたくないのは、わがまま?」
地方在住の20代の専業主婦。生後数か月の子供がいる。夫に首都圏への転勤命令が下った。帯同するか、単身かで夫と揉めている。
「首都圏はコロナが大流行しているから怖い」
という女性の投稿が炎上している。
「コロナは言い訳、わがままだ」
「無職なら夫について行くべき」
と、猛批判を浴びている。一方、
「夫に単身赴任してもらえば」
と理解を示す意見も。専門家に聞いた。
「妻子のために頑張っているご主人が可哀想」
話題になっているのは、女性向けサイト「発言小町」(2021年8月31日付)に載った「夫の転勤についていきたくない場合の説得」というタイトルの投稿だ。
「20代後半の専業主婦です。今年第一子を出産しました。地方在住ですが、夫の首都圏への転勤が決まりました。そこで、帯同するか、単身かで夫と揉めています。今は会社の借り上げ社宅に住んでおります。夫は県外出身、私は同じ県内に実家があります。コロナ禍での転勤であり、小さい子どもがいることから、夫の会社から、帯同か、現在の社宅は借りたままで、夫のみ転勤することも可能(その場合は単身用の寮に入る)と言われています」
投稿者が夫の転勤に付いて行きたくない一番の理由は、「新型コロナウイルス」に対する恐怖だった。
「私としてはコロナ禍の今、首都圏にわざわざ引っ越すリスクをとる必要はないと考えており、夫には単身赴任を希望。しかし、父になったばかりの夫は我が子と離れたくないようで、帯同を希望しております。たしかに生後数か月の我が子と一緒に過ごせないのは可哀想だと思います。ただ、やはり行きたくないのです。赤ちゃんはワクチン接種できませんし、万が一を考えると怖いです。
夫はワクチン接種済みですが、私はまだ。いろいろ行きたくない理由を並べますが、分かってもらえません。どう説得すればいいでしょうか」
と悩みを打ち明けるのだった。
この投稿には、「実家から離れなくないだけで、わがままだ」「専業主婦なのだから夫に付いていくべきだ」という批判の回答が非常に多かった。
「コロナを言い訳にしているだけですよね。日本国中コロナの心配のない場所はありません。お子さんもまだ赤ちゃんだし、専業主婦ならご主人についていって、サポートすればいいのに。妻子のために頑張っているご主人が可哀想です」
「『行きたくない』とは何たることでしょうか。それはただのわがままです。あなたは無職なのだから、夫に付いていくべきでしょう」
「単身赴任とは一般に、奥さんとお子さんが引っ越すと大きなデメリットがある場合にしてもらうもの。奥さんも正社員で働いていて仕事を続けたい、お子さんの学校の関係で転校させたくない、介護が必要な親がいる...。あなたが行きたくないとして挙げている理由はどれも弱く、実家の近くでのんびり暮らしたいのかわかりませんが、正当な理由には思えません」
また、「夫がほかの女性に心がうつってもよいのか」「離婚覚悟なのでしょうね」という痛烈な批判も寄せられた。
「家族を分断する転勤命令を出した会社に疑問」
一方で、「私も単身赴任をしてもらった」「ワクチンを接種し、落ち着いてからゆっくり行けば」と、投稿者に共感を寄せる意見も。
「産後1年経っていないのに、厳しいご意見が多いですね。私がその頃にそんな言い方をされたら産後ウツがひどくなっていたかも(汗)。私も単身赴任夫の妻ですが、ネット環境を整えてテレビ電話をつなぎっぱなしのようにすれば、一緒にいるのとほぼ変わらない状態にできます。子どもとの会話に夫の存在を積極的に出すようにしています。何かある度に『パパにも教えてあげようね』というように。これでうちの子はパパ大好きです。単身赴任夫が寂しいからと浮気したら、付いて行かなかった妻を責めるのはお門違いです」
「私なら、まず旦那さんに先に行ってもらって、赴任先での環境に慣れ、近くの小児科の場所や幼稚園の雰囲気などを調べてもらい、ついて行くかはゆっくり考えます」
「夫が単身赴任のままコロナ禍に突入しました。最初の頃は自宅に帰る時に、会社から厳しく制限がかけられていましたが、今では縛りは一切なく、2週間ごとに帰ってきています。赤ちゃんはそろそろママからもらった免疫が薄れる月齢。『せめて免疫ができ始める1歳までは今の環境から動かしたくない』と説明し、帯同は来春以降にしてもらうのがよいでしょう」
専業主婦が夫の転勤について行かないのは「わがまま」かどうか、今回の投稿をめぐる論争について、J-CASTニュース会社ウォッチ編集部は、女性の働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに意見を求めた。
――今回の投稿と回答者たちの返事を読み、率直にどのような感想を持ちましたか。
川上敬太郎さん「投稿者さんのお気持ちもわかる気がしますし、夫に単身赴任させるのは甘えだと叱咤激励する回答者さんたちのご指摘も、それぞれの経験から感じたことを率直に伝えようとしているのだろうと思いました。ただその前に、そもそもの話として、家族を分断することになる転勤命令を出した会社側に問題はないのか、という点に疑問を感じました。
『これまでの常識』感からすると、ごく当たり前の転勤命令だと思います。全社の人員配置や各社員のキャリア形成などを考え、悪気なく転勤を命じているのだと思います。しかし、そのことで社員自身はもちろん、ご家族にまで大きな負担をかけることが往々にしてあり得ます。その負担に耐えることが『これまでの常識』でしたが、夫婦共働きの家庭が増え、働き手の価値観が多様化している中で、有無を言わさぬ転勤命令は時代にそぐわなくなってきています。テレワークも推奨されている中で、今回転勤することになった背景が気になりました」
専業主婦でも夫についていかない人は結構多い
――なるほど。転勤命令そのものを疑問視する意見はなかったですね。論争の背景には、夫が転勤する場合、妻はついていくべきかどうかという問題があります。川上さんは女性を支援する、しゅふJOB総研の研究顧問をされていますが、転勤問題について、調査したことがありますか。
川上さん「配偶者の転勤に関する意識調査を行ったことがあります。『もし配偶者の転勤で引っ越す必要が生じた場合、あなたがとりそうな行動として当てはまるものをお教えください』と質問したところ、最も多かったのは『自分が仕事をしていても一緒に引っ越す』と回答した人で、3割を超えました。しかし一方で、今回の投稿者さんのように『自分が仕事していなくても単身赴任してもらう』と回答した人も約2割いました。だから、投稿者さんの考え方は、必ずしも珍しいケースではないといえますね。
参考リンク:配偶者転勤なら「引っ越す」31.9%」
――それなのに、多くの人が無職(専業主婦)で子どもが就学前の幼児なのだから、夫の転勤についていくべきだ、コロナは言い訳にすぎないと批判しています。こうした意見についてはどう思いますか。
川上さん「夫と一緒に生活することが基本であるという意味では、そのとおりだと思います。ただ、コロナ禍は、人によって怖いと感じない人もいれば、強い恐怖を感じる人もいます。なかには何らかの持病を持っていたり、肺炎で身内を亡くされたりした経験がある人もいます。人によって感じ方が異なることに対して、『言い訳』とか『わがまま』と断じてしまうことは、かなり一方的な言い分に聞こえてしまいます。
また、ウイルス感染に関係なく、例えばただ地元を離れたくないという理由であっても、投稿者さんが心地よく生活できるかどうかは尊重されるべきだと思います。メリットもデメリットも考えたうえで、やはり夫と同居したほうがよいという結論に至ったのであれば、引っ越し先で心地よく生活する方法を考えればよいのだと思います。しかし、本心では同居するデメリットのほうが大きいと感じているに無理をしてしまうと、投稿者さんご自身に過度なストレスがかかってしまわないか心配です」
――なかには「夫に女性ができたり、離婚の危機になったりするかもしれない」という批判まであります。
川上さん「夫の浮気や離婚については憶測にしか過ぎません。もし、単身赴任の夫は浮気するという決めつけにつながるようであれば行き過ぎです。会社から転勤命令が出た場合、よほどの事情がない限り妻は黙って付いていくのが当然という『これまでの常識』が正しいという考え方が前提としてあると、『言い訳』や『わがまま』と断じることにつながり、果ては『離婚』や『夫の浮気』という話へと飛躍してしまうのでしょう。『これまでの常識』を、一度リセットしてみる必要があると思います」
「これまでの常識」を捨てて転勤命令を断っては...
――「これまでの常識」とは、妻側に格段の理由...... 正社員であるとか、子どもの学校や親の介護問題などがない限り、夫の転勤についていくべきだという考え方ですか。
川上さん「はい。これまで多くの妻たちが、そのようにしてきたということです。それは言い方を変えると、妻たちだけでなく、夫も子どもたちも、会社からの転勤命令によって多大な影響を受け、無理を強いられてきたということでもあるのだと思います。
それらの無理強いに応えることが『これまでの常識』でした。その頑張り自体は評価されるべきだと思いますが、飽くまで『これまでの常識』であって、現在や未来にも同じように振る舞うことを強要するべきだとは思いません。格段の理由があるか否かに関わらず、夫の転勤についていくべきかどうかは、ご夫婦ごとに異なる判断があってよいと思います。
そもそも転勤命令を投稿者さんの夫は望んでいたのかという点が気になります。もし夫が望まない転勤なのであれば、お子さんが生まれたばかりの家庭であることを考えても、転勤しなくて済むようにすることが、本来会社がすべき配慮なのではないかと感じてしまいます」
――川上さんならズバリ、投稿者にどんなアドバイスをしますか。
川上さん「会社内での夫の立場を考えると強く求めづらい選択肢だとは思いますが、転勤を断ることも一つの方法だと思います。ただ、それが現実的ではないのであれば、やはり単身赴任をお願いするか、お子さんと共にご自身もついていくかを選ばなければなりません。
どちらにもメリットとデメリットがありますが、完全にスッキリする回答とはならないでしょう。ご夫婦で、家族全員にとって最適と言える回答を出すために、知恵を絞って話し合いを重ねていただきたいです。避けていただきたいのは、話し合うこともせず、投稿者さんと夫のどちらかが、一方的にあきらめた形で結論を出してしまうことです」
――まず、会社に転勤命令を撤回してもらうよう働きかけるということですか。
川上さん「社員である以上、ご夫婦はどうしても会社の決定に振り回されることになります。よほどの強者でない限り、社員の立場としては転勤命令を断りづらいというのが、これまでの日本の会社文化です。それだけの負荷を社員に強いることが本当に正しいことなのか? 転勤させる権限を有する会社側に考えていただきたい。それが、権限を有する側の責任でもあるはずです。
『これまでの常識』のすべてが悪い訳ではありません。しかし、価値観は多様化し、会社と社員との関係性も時代に合わせて変わろうとしています。もし転勤が、夫が希望したものではなく、会社からの一方的な命令なのであれば、投稿者さんも夫も、生まれたばかりのお子さんも、『これまでの常識』による被害者だと言えるのではないでしょうか」
(福田和郎)