専業主婦でも夫についていかない人は結構多い
――なるほど。転勤命令そのものを疑問視する意見はなかったですね。論争の背景には、夫が転勤する場合、妻はついていくべきかどうかという問題があります。川上さんは女性を支援する、しゅふJOB総研の研究顧問をされていますが、転勤問題について、調査したことがありますか。
川上さん「配偶者の転勤に関する意識調査を行ったことがあります。『もし配偶者の転勤で引っ越す必要が生じた場合、あなたがとりそうな行動として当てはまるものをお教えください』と質問したところ、最も多かったのは『自分が仕事をしていても一緒に引っ越す』と回答した人で、3割を超えました。しかし一方で、今回の投稿者さんのように『自分が仕事していなくても単身赴任してもらう』と回答した人も約2割いました。だから、投稿者さんの考え方は、必ずしも珍しいケースではないといえますね。
参考リンク:配偶者転勤なら「引っ越す」31.9%」
――それなのに、多くの人が無職(専業主婦)で子どもが就学前の幼児なのだから、夫の転勤についていくべきだ、コロナは言い訳にすぎないと批判しています。こうした意見についてはどう思いますか。
川上さん「夫と一緒に生活することが基本であるという意味では、そのとおりだと思います。ただ、コロナ禍は、人によって怖いと感じない人もいれば、強い恐怖を感じる人もいます。なかには何らかの持病を持っていたり、肺炎で身内を亡くされたりした経験がある人もいます。人によって感じ方が異なることに対して、『言い訳』とか『わがまま』と断じてしまうことは、かなり一方的な言い分に聞こえてしまいます。
また、ウイルス感染に関係なく、例えばただ地元を離れたくないという理由であっても、投稿者さんが心地よく生活できるかどうかは尊重されるべきだと思います。メリットもデメリットも考えたうえで、やはり夫と同居したほうがよいという結論に至ったのであれば、引っ越し先で心地よく生活する方法を考えればよいのだと思います。しかし、本心では同居するデメリットのほうが大きいと感じているに無理をしてしまうと、投稿者さんご自身に過度なストレスがかかってしまわないか心配です」
――なかには「夫に女性ができたり、離婚の危機になったりするかもしれない」という批判まであります。
川上さん「夫の浮気や離婚については憶測にしか過ぎません。もし、単身赴任の夫は浮気するという決めつけにつながるようであれば行き過ぎです。会社から転勤命令が出た場合、よほどの事情がない限り妻は黙って付いていくのが当然という『これまでの常識』が正しいという考え方が前提としてあると、『言い訳』や『わがまま』と断じることにつながり、果ては『離婚』や『夫の浮気』という話へと飛躍してしまうのでしょう。『これまでの常識』を、一度リセットしてみる必要があると思います」