「定年時に子供は中学生かそれ以下」
一方、「45歳定年制」の早急な実現に反対するのは、山口浩駒沢大学准教授(経営学)だ。多様な書き手の情報発信サイトBLOGOS(9月11日付)「『45歳定年制』を実現させたいなら」で、明治以降の「定年制度」と「早期退職制度」の歴史を振り返った後に、こう指摘する。
「(新浪氏は)45歳で定年を迎えた人の行先は『スタートアップ企業など』と言っているだけで、その人たちの生活への視点は薄弱だ。その『スタートアップ』とやらはどこにあるのか。そこで求められるのはどんな能力なのか。そうした能力を身につけるために企業はどのような支援をするのか。能力が身につかなかった人はどうするのか。多くの労働者にとって定年後に生計を立てていく見通しが立たない状況が受け入れられるわけがない。
また、そもそも45歳前後は『節目』というより、雇用の継続と安定を最も必要とする年代である。国の『出生動向基本調査』(2015年)によると、夫妻の平均初婚年齢は夫が30.7歳、妻が29.1歳だ。45歳定年だと定年時に子どもは中学生かそれ以下となる。これから最も教育費がかかる時期を迎える年齢だ。このあたりで収入が不安定になるとすると、子どもを持とう、結婚しようという人は現在よりさらに少なくなるだろう。
新浪氏は、政府の経済財政諮問会議の民間議員も務めている。いわば国の舵取りの方針策定に関与する立場であるわけで、一企業を超えた活躍を期待しなければなるまい。45歳定年制を実現させたいならまず、『凡人』が凡人なりに45歳で新たな職に挑戦し、きちんと生きていける世の中を実現してもらいたい。45歳の『一休』たちに『屏風の虎』を捕まえてほしければまず、屏風から虎を追い出してみせよ、という話だ」
このほか、インターネット上でもさまざまな専門的な立場の人が発言をしている。ヤフコメにはこんな意見もある。
明治大学公共政策大学院専任教授で社会福祉研究者の岡部卓氏も、反対の立場だ。
「時代に逆行する考えである。雇用の流動化を図り経済成長につなげる方策の一つとして早期の定年制の導入を打ち出しのであろう。コロナに乗じて述べているが、結びつける話ではない。これまでも労働市場の規制緩和により正規雇用を減らし、パート、派遣など非正規雇用を増やしてきた。その結果、格差が広がり、働いても生活が維持できない多数の労働者を生み出してきた。45歳定年制の導入は、それに拍車をかけることになる。
人口減少社会が進行するなかで、中高年の経験や能力を活かす、また雇用を守り、労働者の生活の安定・向上に努めるような方策が求められている。この考えには、それが出されていない。企業利益の追求はあるが、労働者の利益に資する姿勢がみられない。これは、単に早期の定年制導入の問題にとどまらない。労働者の雇用と生活を守る企業のあり方、そして国民・住民の生活を支える社会保障に密接に関わる問題である」
就活対策ポータルサイト「就活SWOT」代表の酒井一樹氏は就活生の立場から、こう指摘する。
「企業側がこれを提示する場合、求職者目線では『若い間のリターンが他の会社より大きくなければ選ぶ意味がない』という事になります。一部の外資系企業などは、実際に20代~30代の間から高給であり、退社後の市場価値も高まるからこそ就職先として一定の人気があります。
そういった意味のあるリターンがない中で、定年の年齢だけ下げよう...というのは経営側の願望を言っているだけと批判されても仕方ないでしょう。『会社に頼らず活躍できる人材を増やすためどうするか?』を先に議論していくべきだと思います。また同時に、早期定年を迎えた人材に対して、産業界からどのような活躍の場を与えられるかを考えるべきでしょう」