厚生労働省が2021年8月31日に発表した「2020年の雇用動向調査の結果」で、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた雇用の姿が浮き彫りになった。
雇用動向調査は1万5184事業所を対象に行われ、有効回答数は上半期に9032事業所、下半期に8841事業所だった。
2020年1年間の入職者数は710万3000人、離職者数は727万2000万人で、離職者が入職者を16万8000人上回った。
2020年、離職者が入職者を16万人超上回る
雇用動向調査を就業形態別にみると、一般労働者は入職者数391万4000人、離職者数は392万8000人で、離職者が入職者を1万4000人上回った。一方、パートタイム労働者は入職者数318万9000人、離職者数334万3000人で、離職者が入職者を15万4000人上回った。
この状況を見ると、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年は、特にパートタイム労働者で離職者が入職者を大幅に上回っており、パートタイム労働者にとって厳しい雇用環境だったことがうかがえる。
年初の常用労働者数に対する割合である入職率・離職率では、入職率が13.9%、離職率が14.2%と、入職超過率はマイナス0.3ポイントと離職超過となった。前年と比べると、入職率が 2.8ポイント、離職率が1.4 ポイント、それぞれ低下している。
入職超過率がマイナスとなるのは、2011年以来9年ぶり。入職超過率がマイナスだったのは、直近では2008年から2011年の4年間だ。この期間は2008年に発生したリーマン・ショックによる雇用悪化期だったことを考えると、新型コロナウイルスはリーマン・ショックと同様の影響を雇用に与えたと考えられる=図1参照。
また、リーマン・ショックによる雇用悪化期が4年間にわたったことを考えると、新型コロナウイルスの感染拡大が収束していない現状において、雇用悪化期が2020年にとどまらず、今後も続く可能性があると見られる。
性別にみると、男性の入職率が12.2%、離職率が12.8%、女性の入職率と離職率はともに15.9%だった。就業形態別にみると、一般労働者の入職率と離職率はともに10.7%だったが、パートタイム労働者の入職率が22.2%、離職率が23.3%と離職超過となった。
2006年以降の就業形態別の入職率と離職率の推移を見ると、一般労働者は入職率、離職率とも10%台前半で低位に推移しているのに比べ、パートタイム労働者は入職率、離職率とも30%近くまで大きな変動があることがわかる=図2参照。
パートタイム雇用、ますます不安定に......
さらに、2020年に離職率が入職率を上回る離職超過状態になったのは、パートタイム労働者の離職超過によるものだということがわかる。
入職者数と離職者数を就業形態、雇用形態別にみると、入職者数のうち一般労働者では「雇用期間の定めなし」が294万3000人、「雇用期間の定めあり」が97万1000人と「雇用期間の定めなし」が197万2000人多い。
これに対して、パートタイム労働者では「雇用期間の定めなし」が128万4000人、「雇用期間の定めあり」が190万4000人と「雇用期間の定めあり」が62万人多くなっており、パートタイム労働者の雇用が不安定なことが浮き彫りになっている。
これは、離職者数のうち一般労働者では「雇用期間の定めなし」が289万7000人、「雇用期間の定めあり」が103万8000人に対して、パートタイム労働者では「雇用期間の定めなし」が108万1000人、「雇用期間の定めあり」が226万1000人と雇用期間の定めにより仕事を離れている人が多いことにも表れている。
入植者に占めるパートタイム労働者の男女の年齢階層別割合を見ると、女性は男性よりもパートタイム労働者の割合が高く、年齢を追うごとに割合が増加していくのに対して、男性は60歳以降に急激にパートタイム労働者の割合が高まっている=図3参照。
コロナ禍の雇用への悪影響は続く
女性の場合には65歳以上で90.4%が、男性は74.4%がパートタイム労働者となっている。これは、男女とも、特に男性の高齢者雇用が正規社員としての定年延長ではなく、非正規社員での再雇用などによって行われていることの証明でもあろう。
最後に、産業別で前年比入職者が多かったのは情報通信業3万4000人増、建設業2万5000人増、運輸業、郵便業の1万6000人増だったのに対して、少なかったのは宿泊業、飲食サービス業44万4000人減、卸売業、小売業39万6000万人減、製造業16万3000人減だった。
一方、離職者が多かったのは運輸業、郵便業3万6000万人、サービス業(他に分類されないもの)2万2000人、建設業1万1000人だった。
2020年度の雇用動向を見る限り、コロナ禍は確実に雇用に悪影響を与えており、特にパートタイム労働者に大きく現れている。いまだに新型コロナウイルスの収束が見えない以上、コロナ禍の雇用への悪影響は続くと考えられる。(鷲尾香一)