海の温暖化と酸性化で、マグロやホタテ、アワビ、ノリも食べられなくなる?【地球温暖化を知る一冊】

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   9月1日は「防災の日」。1923(大正12)年9月1日に関東大震災が起きてから、もうすぐ100年になろうとしている。また、近年は9月に大型台風が上陸したり、長雨が続いたりして、各地で風水害も発生している。9月は防災、自然災害、気候変動、地球温暖化をテーマにした本を随時、紹介していこう。

   秋の味覚の代表といわれるサンマ。しかし、2020年の全国のサンマの水揚げ量は前年より27%少ない2万9566トンで、前年に続き、記録が残る1960年以降で過去最低を更新した。産地市場の卸売価格は10キロあたり4804円で、前年の1.5倍に高騰。「高級魚」化に拍車がかかった。

   資源量の減少や中国や台湾の漁船による公海域での乱獲が原因という指摘もあるが、本書「温暖化で日本の海に何が起こるのか」によると、サンマに限らず日本の豊富な海産物が、海の温暖化と酸性化という二つの危機によって大きく変化しつつあるという。

「温暖化で日本の海に何が起こるのか」(山本智之著)講談社ブルーバックス
  • サンマは冬の味覚になるかも!?(写真はイメージ)
    サンマは冬の味覚になるかも!?(写真はイメージ)
  • サンマは冬の味覚になるかも!?(写真はイメージ)

100年で約1.1度上昇する日本近海の水温

   著者の山本智之さんは科学ジャーナリスト。朝日新聞記者として約20年間、科学報道に従事。水産庁の漁業調査船「開洋丸」に乗船して南極海で潜水取材を行うなど「海洋」をテーマに取材を続けている。朝日新聞大阪本社科学医療部次長などを経て2020年から朝日学生新聞社編集委員。沖縄のサンゴ礁の現状を調査するため研究者と共同調査するなど、従来の科学記者の枠を超えた行動力がある。

   科学調査への同行を含めて国内外の潜水経験は500回以上。本書に掲載されている海の生き物の写真の多くは山本さんが撮影したものだ。著書に「海洋大異変――日本の魚食文化に迫る危機」(朝日新聞出版)がある。

   日本近海の平均海面水温は、100年あたり約1.1度と、世界平均を上回るペースで確実に上昇しているという。海水温の上昇により、日本周辺海域で、南方系の魚介類が北上する。たとえば、南方から暖かい海流にのって日本周辺に回遊し、冬が越せずに死滅する「死滅回遊魚」が、いつの間にか「越冬回遊魚」になりつつあるらしい。相模湾や駿河湾では、20年前まで死滅回遊魚とされていた熱帯・亜熱帯性魚類のうち、23科59種が越冬するようになっているという。

   東京湾でシオマネキなど南方系のカニが出現していること、大阪湾で高水温が苦手なマアナゴが減り、比較的暖かい海を好むハモが増えていること、海水温の上昇にともなって毒化した魚による「シガテラ中毒」が各地で発生していることについて報告している。

サンマは将来、小型化し冬の味覚になるかも?

   冒頭に書いた高級魚化するサンマなど、代表的な魚について詳しく変化にふれている。サンマの近年の不漁について、東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授の以下の見解を紹介している。

・親潮が弱く、サンマが南下しにくい
・北海道沖に暖水塊が停滞しやすくなり、サンマの南下を妨げた

   さらに伊藤教授らのシミュレーションによると、エサとなる動物プランクトンの減少により、2050年にはサンマの体長は今よりも1センチ、2099年には2.5センチ小型化するという。南の海域への回遊も遅くなり、「サンマの旬」は秋から冬へとシフトすると予測されている。その一方、海水温の上昇で産卵数は増え、個体数そのものは増えるかもしれないという。

   このほかにも、サケ、カキ、フグ、ホタテ、アワビなどについて最近の現象から未来の予測まで詳しく紹介している。海水温が1度違うだけで魚や海藻にとっては死活問題になることを指摘している。

日本近海ものは口に入りにくくなる

   海の温暖化についてはさまざまな報道があり、漠然と知っている人も多いだろう。本書は海の「酸性化」にいち早く警鐘を鳴らしているのが新しい。

   静岡県下田市にある筑波大学の下田臨海実験センターの実験水槽には、3つの水槽があり、二酸化炭素の濃度をそれぞれ現在、今世紀末、来世紀半ばの想定で変えてある。地球温暖化により二酸化炭素が海に溶け出し、酸性化が進むからだ。

   その結果、海の酸性化が進むと、植物プランクトンのサイズが小型化することがわかった。そうすると食物連鎖のステップが増え、生態系の上位にいるブリやマグロ、サケなど大型魚類が成長しにくくなり、漁獲量が減る恐れがあるという。

   海の酸性化は将来の話ではなく、日本近海で実際に酸性化が進み、海水のpHが低下しつつあることが、気象庁の海洋観測で確認されていることを紹介している。わずかな酸性化でも、炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ生き物に大きな影響を与える。

   貝類は稚貝の殻が薄くなって捕食されやすくなり生存率が低下した、イソ筋エビでは触角が短くなり折れやすくなって生存率が4割も下がった、バフンウニなどでは左右の腕の長さが非対称になり海中での姿勢制御が難しくなって分布を広げる能力が低下する――などのことが実験で明らかになっている。実際の海では、すでに変化が起き始めている可能性があるという。

   すでに回転寿司のネタの多くは海外から輸入されているが、日本近海ものはますます口に入りにくくなるかもしれない。(渡辺淳悦)

「温暖化で日本の海に何が起こるのか」
山本智之著
講談社ブルーバックス
1210円(税別)

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