水害を防ぐ名言が日本各地に残っている【防災を知る一冊】

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   9月1日は「防災の日」。1923(大正12)年9月1日に関東大震災が起きてから、もうすぐ100年になろうとしている。また、近年は9月に大型台風が上陸したり、長雨が続いたりして、各地で風水害も発生している。9月は防災、自然災害、気候変動、地球温暖化をテーマにした本を随時、紹介していこう。

   昨年(2020年)7月3日から31日にかけて、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨は、「令和2年7月豪雨」と命名された。球磨川水系が氾濫・決壊し、64人が亡くなるなど、熊本県の被害は特に甚大だった。また、2019年9月には台風15号が関東地方に上陸、千葉県が打撃を受けた。近年増えている風水害に備えるには、どうしたらいいのか――。

   本書「治水の名言」」のサブタイトルは、「水災害頻発、先人の知恵に学ぶ」。いったい、どんな名言があるのだろう?

「治水の名言」(竹林征三著)鹿島出版会
  • 「治水の名言」が現代に伝えることとは……(写真は、新潟市内を流れる信濃川)
    「治水の名言」が現代に伝えることとは……(写真は、新潟市内を流れる信濃川)
  • 「治水の名言」が現代に伝えることとは……(写真は、新潟市内を流れる信濃川)

古くから伝わる「水害」をめぐる名言

   著者の竹林征三さんは、京都大学工学部土木工学科卒、同大学院修士課程を修了し、1969年旧建設省(現国土交通省)に入省。琵琶湖工事事務所長、土木研究所ダム部長、環境部長などを歴任。現在、富士常葉大学名誉教授。工学博士、技術士。著書に「環境防災学」「物語 日本の治水史」などがある。

   水害大国の日本。古くから水害について、さまざまな名言がつくられてきた。竹林さんは「歴史書よりも伝説のほうが真実を伝えていると感じる場合が多い」という。歴史書には事故や失敗の記録があまり残されていないからだ。そして、名言に注目して、日本の治水の歴史をまとめたのが本書だ。

   「平家物語」の巻一には白河法皇が「賀茂川の水、双六の賽、山法師、是ぞ、わが心にかなわないもの」と嘆いたという逸話がある。古来氾濫を繰り返す暴れ川として知られた加茂川・鴨川がもたらす水害には打つ手がないという意味だ。

   各地にさまざまな名言が残っている。たとえば、滋賀県の瀬田川には「左岸の大日山を切ってはならぬ」として、行基が大日山を御神体とした。切れば祟りがある、切れば上流は助かるが下流は洪水被害が頻発することになる、と戒めたのだ。

   また、佐賀平野の低平地部に残る、「カンスのツルは切ってはならない」も同様だ。「カンスのツル」とは、鉄瓶のグルっと丸い取手で、大きい蛇行の連続を指している。蛇行部が塩水の遡上を食い止めているので、これを切れば取り返しのつかない大変な塩害が起こるので、ショートカットを戒めている。

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