インフレに寛容なFRB議長の今後
ところが、ここに「雇用の遅れ」という新しい材料が加わりました。正確には特別給付が完全に終わったあとの労働市場がわかる9月の米雇用統計の数字を見て確認したいところですが、8月の数字を見ると、不安になります。
コロナ禍によって労働市場が決定的に変化した、つまり、経済は良くても雇用はなかなか戻らないとするならば、雇用面における「一段と顕著な進展」はいつまでたっても達成されない可能性があり、必要以上に緩和状態を長引かせてしまう可能性があります。
悪い雇用統計にも関わらず、米国の株式市場は安定していました。驚いたのは、米長期金利が上昇した(1.27%前後から1.32%前後に)ことです。平均時給の伸びに敏感に反応したのでしょう。つまり、債券市場は、景気が悪いから雇用者数が伸びなかったとは解釈していないということです。コロナ禍後の新しい経済を受け入れているのでしょう。
米ジャクソンホールにおいて、パウエル議長はスピーチの約半分の時間を使って、いかに今の高いインフレ率がそのうち収まるのか、高いインフレ率に過敏に反応することは大きな失敗につながるのかを、延々と説明しました。
おそらく、今の高過ぎるインフレ率は、そのうち穏やかになるのでしょう。しかし、基調として高いインフレ率が定着するリスクを軽く見過ぎているとも思いました。
米国のアフガニスタン撤退における大失態は、1975年のサイゴン陥落や、イラン革命時におけるテヘラン米大使館救出作戦の失敗に重なりました。バイデン米大統領は「成功だった」と自画自賛し、失敗を糊塗する姿が、情けなく見えました。
米国が弱かった1970年代が思い出されます。カーター米大統領(当時)は、人格高潔な良い人でしたが、大国の指導者としてはあまりにも弱かった。あのときもインフレ率が高く、スタグフレーションという言葉まで生まれました。その高インフレは、最終的にはボルカー議長による超高金利政策で沈めなければなりませんでした。
ボルカー議長の前、1970~78年にFRB議長を務めたアーサー・バーンズ氏はインフレに対して甘い対処しかしなかったことで高インフレを招き「史上最低の議長」とされています。
パウエル議長がそうなるとは思いませんが、長い戦争からの撤退、高いインフレ率、民主党政権、弱い大統領、インフレに寛容なFRB議長と、1970年代後半と今が何となく似ていると感じさせられます。(志摩力男)