日本のデジタル改革の司令塔となる「デジタル庁」が2021年9月1日に発足した。しかし、人事などをめぐってトラブルが続き、発足3日目には生みの親である菅義偉首相が退陣を表明するなど前途多難な船出となった。
「間違いなくこのプロジェクトは、菅総理の最大の功績だと思っています」
8月3日昼、デジタル庁がオフィスを構える「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京都千代田区)20階会議室。記者会見に臨んだ平井卓也デジタル相は、直前に自民党総裁選不出馬を表明した菅氏の功績をこう称えた。
「最大の庇護者を失った。最悪の展開」
菅義偉首相がデジタル庁の創設構想を打ち出したのは2020年9月の自民党総裁選。これを勝ち抜き、首相に就任すると政権発足から1年足らず約600人規模の新官庁を誕生させた。
デジタル庁を内閣直轄組織と位置づけ、首相がトップに就く組織構成とした点からも菅氏の思い入れの強さがわかる。
平井卓也デジタル相は会見で、「(行政のデジタル化)路線はいかなる状況になったとしても変わるものではない」と強調し菅氏退陣の影響を否定するものの、庁内からは「デジタル庁がようやく発足して、まさにこれから各省庁と戦おうという時期に最大の庇護者を失った。最悪の展開だ」と、先行きを不安視する声があがっている。
そもそもデジタル庁自身、発足前から不祥事が相次ぎ足元がぐらついている。
同庁の発足準備を進めてきたのは、内閣府情報通信技術(IT)総合戦略室。しかし、この戦略室が手がけた東京五輪・パラリンピックで使う健康管理アプリをめぐり、平井氏が内部会議で「(事業費削減に向け受注企業を)脅しておいたほうがいい」と発言していた音声データが流出。世論の強い批判を浴びた。
政府はその後の調査で、平井氏発言は問題がなかったと結論付けたものの、戦略室内部で不適切な入札対応があったとして室長代理ら3人が訓告処分を受けた。平井氏も監督責任をとって閣僚給与1か月分を自主返納している。