製紙大手の王子ホールディングス(HD)の株価が2021年8月27日に年初来安値564円をつけ、その後も思うように反転できずにいる。
5月13日に年初来高値769円まで上昇した原動力になった海外パルプ事業が、パルプ価格の下落によって失速しそうなため、投資家の売りを呼んでいる。9月8日の終値は前日比11円高の595円だった。
王子HDは前身が明治初期の1873年に設立された製紙会社「抄紙会社」という、たいへんな老舗で、現在も国内製紙メーカー首位の座にある。時代に合わせて少しずつ業容を変えており、堅実な製造業ではあるが、株価は最高値だったバブル期の約3分の1程度にとどまっている。
段ボールやEV向けフィルムが好調だけど......
まずは直近の業績を確認しておこう。2021年4~6月期連結決算の売上高は前年同期比6.5%増の3427億円、営業利益は約2.6倍の280億円、最終利益は9.6倍の206億円。最終利益は4~6月期としては最高で、大幅増益となった。
そのけん引役が、最終製品である紙の原料となるパルプを海外で外販する事業で、パルプ価格の上昇によって利益が膨らんだ。また、コロナ禍によって高まる通販需要の恩恵で段ボールの販売量が増え、電気自動車(EV)向けフィルムといった新機能素材も好調だった。
前年同期に自粛一辺倒だったイベントの復活により、カタログやポスター、チラシが反動増となった。一方で新聞や雑誌向けの用紙は需要の減少傾向が続いている。
ところが、この好業績をもたらしたパルプ価格は5月をピークに下落している。一方で原油価格をはじめ原料・燃料価格の上昇ないし高止まりが続いており、この両方向の価格のベクトルが王子HDの今後の収益に悪影響を及ぼすとの懸念から、株価は上値が重くなっている。
パルプ市況 中国向けが高騰の後、低迷
9月に入って、首相退陣を好感するなど株式市場全体として上昇基調にあり、日経平均株価の終値は、9月6日が1日に対して4.2%高いが、王子HD株は同期間に0.3%安だった。
関係者によると。パルプ市況は中国向け広葉樹が3~4月に1トン当たり広葉樹770ドル、針葉樹970ドルに高騰したのち、7月以降にそれぞれ650~700ドル。840~860ドルに低迷。ただ、下がったとは言っても前年よりは幾分高い水準という。王子HDは主にブラジルで生産したパルプを中国で販売している。
足元の中国で紙の実需が減退しているわけではないが、中国当局による実質的な取引のコントロールがパルプ価格の乱高下を招いているようだ。
大和証券が8月26日付のリポートで、「短期的にはパルプ価格の動向を注視したい」などと指摘するなか、当面は投資家が手を出しづらい銘柄とみられる可能性もある。(ジャーナリスト 済田経夫)