「ロックダウン」主張の尾身会長が豹変!? 「行動制限緩和のロードマップ」発表にいったい何が...(1)

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「日本にもロックダウンのような強い行動制限が必要」

と言っていた政府分科会の尾身茂会長が「豹変」した。ワクチン接種をした人が対象とはいえ、人の移動や行動、イベント開催などを緩和するロードマップを発表したのだ。

   政府分科会でも尾身氏の提言に猛反発する医療専門家が多い。いったい、何があったのか。

  • 次々と現れるウイルスの変異株(写真はイメージ)
    次々と現れるウイルスの変異株(写真はイメージ)
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ワクチン接種証明があれば、会食や旅行が自由に

   政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が突然発表した「制限緩和のロードマップ」とはいかなるものか――。

   読売新聞(9月3日付)「会食や県境を越える移動、接種進んだ11月頃を想定に緩和...分科会提言」が、こう伝える。

「政府の新型コロナ対策分科会は9月3日、ワクチン接種証明などの活用を前提として、会食や県境を越える移動など行動制限の緩和に関する提言を発表した。十分に接種が進んだ11月頃をめどとした。尾身茂会長は『これをたたき台として国民的な議論を進めてほしい』としており、政府は来週(9月13日以降)にも行動制限に関する考えを示す予定だ。
分科会では、11月頃にはワクチン接種率が60歳代以上で85%、40~50歳代で70%、20~30歳代で60%に到達できると想定。緊急事態宣言を解除した後、感染対策と社会経済活動を両立させるため、接種証明か陰性の検査結果により行動制限を緩和する『ワクチン・検査パッケージ』を提案した。パッケージが適用される行動として、大規模イベントや感染リスクの高い部活動などを挙げた。一方、修学旅行や入学試験、選挙・投票、義務教育での対面授業については、参加機会を担保する必要があるため、パッケージは適用すべきではないとした。
パッケージを活用することで、接種していない人が制約を受けることになる。分科会は、そうした不利益をどの程度容認すべきか、海外の事例をもとに議論をする必要があるとした」

   つまり、ワクチンを2回接種した人を中心に行動制限を緩めて、感染対策と社会経済活動の両立を図っていこうというわけだ。そのために、ワクチンを接種したという「証明書」を活用する。当初は「ワクチンパスポート」というネーミングが考えられたが、所持が必須のようなプレッシャーを接種していない人に与えるということで、ワクチン接種と検査によって陰性であることの証明を組み合わせた「ワクチン・検査パッケージ」という案に落ち着いた。

   いったい、どこまで行動制限を緩和するつもりなのか。詳しくは政府分科会のホームページに「ワクチン接種が進む中で 日常生活はどのように変わり得るのか?」 のタイトルで提言の内容を公開している。

   尾身会長は記者会見で、突然の提言についてこう説明した。

「現在の緊急事態宣言の解除とはまったく別の話だ。今からガードを下げていいのかというようなメッセージには絶対ならないよう、注意してほしいというのが(分科会の)みんなの意見です」

菅首相の「明かりが見え始めた」発言のメンツを立てる

   それにしても尾身会長は、ひと月前の8月5日の国会審議では、

「個人の行動制限を可能にする法的仕組みが必要だ。ロックダウンの法制化の議論をすべきだ」

とまで訴えていたのに、なぜ真逆に豹変したかに見える提言を自ら出したのか。

   「官邸の圧力に屈した」と報じるのは、朝日新聞(9月3日付)「新たな対策緩和案、専門家ら反発し大幅削除 官邸は緩和拡大要望」だ。こう伝える。

「政府の対策分科会が9月3日、ワクチン接種が進む中での新しい感染症対策を提言した。対策を緩和したい首相官邸の強い要請で、尾身茂会長が提言案をまとめたが、医療がひっ迫する中で出したことに分科会の専門家らが強く反発。(当初の原案にあった)酒の提供に関する部分などを大幅に削除した。
提言案では、ワクチンを接種していれば、感染症対策をとって第三者認証を受けた飲食店を活用できるとした。飲食店も感染対策をすれば酒の提供や営業時間短縮要請の緩和を可能とした。分科会では専門家から、現時点でワクチンが行き渡るまでの対策を出すことが『まだ早い』といった意見が続出。飲食店の活用などは緊急事態宣言解除後の対策だが、現在一般市民に求めている行動制限に悪影響が出ると見ての反発だった。『希望者にワクチンが行き渡るまで』の対策を、すべて削除することになった」
尾身茂会長に「圧力」をかけた? 菅義偉首相
尾身茂会長に「圧力」をかけた? 菅義偉首相

   酒もOKという内容が、分科会メンバーの猛反発に遭い、すべて削除されることになったわけだ。なぜ、尾身会長は分科会の医療専門家の反対が必至の提言案を出したのか。朝日新聞がこう続ける。

「尾身氏が提言案を出した背景には官邸の圧力がある。緊急事態宣言下の制限された生活に国民の不満が高まるなか、政府は7月に検討を依頼。専門家の多くは提言案提出に難色を示していたが、菅義偉首相が8月25日の記者会見で『明かりははっきり見え始めている』と発言したこともあり、官邸が押し切った。 複数の政府関係者によると、政府が検討する案では、10~11月から、酒の提供などの規制緩和を緊急事態宣言下でも可能としている。『Go Toトラベル』の再開なども検討項目にしている。尾身氏は記者会見で『ガードを下げていいというメッセージではまったくない。(一部を削除したのは)メッセージが誤解されると困るのが主な理由だ』と語った」

   官邸が分科会に「制限緩和のロードマップ」を作るよう圧力をかけたのは、「明かりが見え始めている」と明言した菅義偉首相のメンツを立てるためだけではなかった。「行動制限を緩和してほしい」という経済界からの強い要望があったからだった。

経団連「水際作戦が厳しくてビジネスができない」

ワクチンを2回接種した人に行動の自由を与える(写真はイメージ)
ワクチンを2回接種した人に行動の自由を与える(写真はイメージ)

   さっそく9月6日、日本経済連合会(経団連)の十倉雅和会長が分科会の提言の先をゆく「社会活動正常化のロードマップ」を発表した。

   9月6日のNHKニュース「社会経済活動正常化へ経団連が提言 接種者の隔離措置免除など」が、こう伝える。

「経団連は9月6日の会見で、ワクチンを接種した人への帰国や入国後の隔離措置の免除など、政府に対して社会経済活動の正常化に向け必要な対策をとるよう求める提言を発表しました。提言では足元の感染拡大や医療体制のひっ迫の解消に向け、まずは総力を挙げるべきだとする一方で、『今後も一定水準の新規感染が生じる傾向は続くと想定される。社会経済活動の再開・活性化が可能となるよう今から必要な対策の検討などを始めることが重要だ』と指摘しています。
ワクチン接種が進む欧米では海外との往来も活発になっているとして帰国や入国後の隔離期間を現在の14日間から最長でも10日間に短縮するほか、接種した人に対する隔離措置の免除や接種証明のある外国人へのビザの発給などを早急に検討すべきだとしています。
十倉会長は『ワクチン接種がさらに進み、重症化率が下がり、医療崩壊を防ぐことができたら10月から11月ごろにはワクチン接種を受けた人から社会経済活動を立ち上げていくべきだ』と述べました」

   NHKは、政府が進める「水際対策」が厳しいため、重要なビジネスを進めることが難しくなっている例として三井物産をあげた。ワクチン接種を2回済ませていても海外出張から日本に戻ると、自宅で14日間待機しなくてはならない。医薬品事業への投資を担当する社員は、相手先であるロシアの企業経営者を日本に招くことができなかった。このため、ワクチンの接種証明がある人の隔離措置が緩和されている第3国のイタリアまで行き、交渉を行った。そして、三井物産の安永竜夫会長のコメントを紹介している。

「日本経済は海外市場やサプライチェーンとつながって運営されている。ビジネスの次の一手をしかけるには、オンラインでは限界がある。日本経済が孤立するのはよくなく、安全管理を前提としたうえで一定の緩和を目指すべきだ」

(福田和郎)

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