菅首相の「明かりが見え始めた」発言のメンツを立てる
それにしても尾身会長は、ひと月前の8月5日の国会審議では、
「個人の行動制限を可能にする法的仕組みが必要だ。ロックダウンの法制化の議論をすべきだ」
とまで訴えていたのに、なぜ真逆に豹変したかに見える提言を自ら出したのか。
「官邸の圧力に屈した」と報じるのは、朝日新聞(9月3日付)「新たな対策緩和案、専門家ら反発し大幅削除 官邸は緩和拡大要望」だ。こう伝える。
「政府の対策分科会が9月3日、ワクチン接種が進む中での新しい感染症対策を提言した。対策を緩和したい首相官邸の強い要請で、尾身茂会長が提言案をまとめたが、医療がひっ迫する中で出したことに分科会の専門家らが強く反発。(当初の原案にあった)酒の提供に関する部分などを大幅に削除した。
提言案では、ワクチンを接種していれば、感染症対策をとって第三者認証を受けた飲食店を活用できるとした。飲食店も感染対策をすれば酒の提供や営業時間短縮要請の緩和を可能とした。分科会では専門家から、現時点でワクチンが行き渡るまでの対策を出すことが『まだ早い』といった意見が続出。飲食店の活用などは緊急事態宣言解除後の対策だが、現在一般市民に求めている行動制限に悪影響が出ると見ての反発だった。『希望者にワクチンが行き渡るまで』の対策を、すべて削除することになった」
酒もOKという内容が、分科会メンバーの猛反発に遭い、すべて削除されることになったわけだ。なぜ、尾身会長は分科会の医療専門家の反対が必至の提言案を出したのか。朝日新聞がこう続ける。
「尾身氏が提言案を出した背景には官邸の圧力がある。緊急事態宣言下の制限された生活に国民の不満が高まるなか、政府は7月に検討を依頼。専門家の多くは提言案提出に難色を示していたが、菅義偉首相が8月25日の記者会見で『明かりははっきり見え始めている』と発言したこともあり、官邸が押し切った。 複数の政府関係者によると、政府が検討する案では、10~11月から、酒の提供などの規制緩和を緊急事態宣言下でも可能としている。『Go Toトラベル』の再開なども検討項目にしている。尾身氏は記者会見で『ガードを下げていいというメッセージではまったくない。(一部を削除したのは)メッセージが誤解されると困るのが主な理由だ』と語った」
官邸が分科会に「制限緩和のロードマップ」を作るよう圧力をかけたのは、「明かりが見え始めている」と明言した菅義偉首相のメンツを立てるためだけではなかった。「行動制限を緩和してほしい」という経済界からの強い要望があったからだった。