介護労働安定センターの調査によると、2020年度の介護職員の離職率が過去最低となった。要因の一つに介護職員の賃金上昇があると見ている。
ただ、この調査は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が発令されていない期間での調査。介護労働安定センターでは、20年10月に「事業所における介護労働実態調査(事業所調査)」、「介護労働者の就業実態と就業意識調査(労働者調査)」を実施し、9244事業所、2万2154人から回答を得た。
離職者、6割が「3年の壁」を越えられず......
介護事業所の人材が「大いに不足」「不足」「やや不足」を合計した不足感は、60.8%と前年度比で4.5%改善し、改善傾向が継続していた。職種別では、前年度より1.1%改善したものの、訪問介護員の不足感が80.1%で最も高く、次いで介護職員の66.2%(前年度比3.5%改善)だった=図1参照。
人材が不足している理由は、「採用が困難である」が86.6%(前年度比90.0%)が引き続きトップで、その要因としてあげられたのは、「他産業に比べて、労働条件などが良くない」が53.7%(同52.0%)、「同業他社との人材獲得競争が激しい」が53.1%(同57.9%)と高い。
一方で、2019年10月1日から20年9月30日までの1年間の訪問介護員、介護職員の離職率は14.9%(前年同期は15.4%)と、2005度以降最低となった。これは、厚生労働省の調査による2019年度の全産業の平均離職率 15.6%を0.7ポイント下回っている。
その反面、採用率は16.2%と前年度比2.0ポイント低下している。つまり、採用率は低下しているものの、離職率も低下していることにより、人員が現状維持されていることを示している=図2参照。
また、離職者を勤続年数で見ると、「勤続3年未満」の離職者が全体の約6割を占めており、離職率を引き上げているのは、勤続年数の短い労働者が要因となっている。
仕事を辞めた理由としては、 全体では「職場での人間関係に問題があったため」が23.9%と高く、男女別で比較した場合、男性では「自分の将来に見込みが立たなかったため」が26.9%と最も高く、女性では「結婚・妊娠・出産・育児のため」が23.9%と最も高かった。
介護の世界に広がる「老々介護」
一般労働者(無期雇用職員、月給の者)、管理者の所定内賃金、賞与は、ともに前年より増加した。
一般労働者の所定内賃金は、平均24万3135円と前年度より8696円増加した。管理者の所定内賃金は、平均38万2036円と同2万6611円増加した。また、一般労働者の平均賞与額は62万6094円で2万6588円の増加。管理者の平均賞与額は86万6872円で11万8213 円増加した=図3参照。
介護における65歳以上の労働者の割合12.3%で、職種別では訪問介護員が最も割合が高く、4人に1人が65歳以上だった。次いで看護職員の13.1%、介護職員の9.4%となっている。
60歳以上の介護労働者を合わせると23.8%(前年度22.4%)と全体の2割を超える。平均年齢も年々上昇しており、49.4歳(同48.8歳)に上昇した。60歳以上の介護労働者に比率は、年々増加傾向にある。
定年制度の有無では、「定年制度なし」の事業所が17.7%、「定年制度あり」の事業所が80.6%。「定年制度あり」のうち定年到達後の継続雇用制度導入は、「再雇用制度」が63.7%、「勤務延長制度」が26.1%と約8割の事業所で導入している。
外国籍労働者を受け入れている事業所数は8.6%(同6.6%)で、外国籍労働者の活用が進んでいる。
介護職員は人材不足の状況のなか、採用率が低下している半面、離職率も低下しており、その要因としては賃金の上昇によると考えられる。ただ、介護職員の平均年齢は上昇し、高齢化が進んでいる。加えて、外国籍労働者の活用も進んでいる。
こうした現状は、介護の世界でも老々介護への階段を登っていることを表わしており、その代替要員として外国籍労働者の活用が進んでいるという姿が浮かび上がる。
ただ、この調査が新型コロナによる緊急事態宣言が発令されていない期間での調査だったことは、新型コロナの影響によって、状況が変化している可能性を含んでいる。(鷲尾香一)