コロナ禍を機に多彩な働き方が広がるなか、JR東海とJR西日本は2021年10月1日から、東海道・山陽新幹線「のぞみ」にテレワーク専用車両を導入する。
乗車前と後を通してシームレス(継ぎ目なし)に仕事ができる環境を整備することで、低迷する顧客の利用を少しでも回復させたいという狙いだ。
新幹線の中から気兼ねなくオンライン会議
「のぞみ」全便の7号車をテレワーク専用の「S Work車両」として設定する。「S」はシームレスの頭文字から取ったという。座席予約は、会員制のインターネットサービス「エクスプレス予約」「スマートEX」から行うことができる。
料金は普通車の指定席と同額で、特別な追加料金はかからない。のぞみの新型車両「N700S」の場合は、充電器や小型マウスのほか、のぞき見を防ぐ簡易ついたて、パソコンをひざに乗せて楽に作業できる膝上クッションなどを無料で貸し出す。
これまでも新幹線の座席で仕事をすることは可能だったが、キーボードをたたく音が周囲の迷惑にならないか、気になる人が多い一方、家族連れのお客のおしゃべりなどで気が散って仕事に集中できないなどという人も少なくなかった。専用車両なら気兼ねなくパソコンを使えるほか、迷惑にならないように配慮すればオンライン会議に参加することも可能で、多忙なビジネスマンらには重宝されそうだ。
駅でも! 鉄道各社、テレワーク対応続々
JR東日本も東北新幹線「はやぶさ」にテレワーク専用車両を設ける実証実験を2月と6月に実施した。社内での会話が漏れるのを防ぐため、話し声を聞こえにくくする特殊な音を流すような実験も行い、導入方法などを現在、検討している。
車両だけではない。JR東海は9月から順次、東京駅や名古屋駅、新大阪駅の一部の待合室に、半個室タイプのビジネスコーナーを設置し、無料で提供を始める。電話ボックスのように仕切られたブースで、急な仕事が入った場合も周囲の目を気にせずパソコンなどに向かえそうだ。コンセントを差し込んで電源がとれるコンセントポールも順次整備していく方針だ。
私鉄でもテレワークに対応する環境整備を進めており、小田急電鉄は今春、一部の駅の改札付近にあったATM(現金自動預け払い機)を撤去した跡地を活用し、テレワーク用の個室を開設するなどしている。
テレワークに配慮した手厚い対応が新幹線にまで広がっているのは、自宅などで仕事をする人が増えたことで、鉄道利用者、特にビジネス客が激減しているためだ。多くの鉄道関係者は、テレワークなどの新しい働き方は今後も定着し、コロナ後も以前と同じ需要は戻りそうもないとみている。
需要減が避けられない流れだけに、手をこまねいていたら、将来は危ういという危機感は各社に共通する。今後も多彩なサービスが広がる可能性がある。(ジャーナリスト 白井俊郎)