「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
8月30日発売の「週刊ダイヤモンド」(2021年9月4日号)は、「廃業急増のウラ 倒産危険度ランキング」と題した特集を組んでいる。
不景気になれば倒産は増える。そんな常識が通用しないのが「コロナ危機」だ。企業への支援策の充実で、見た目の倒産件数は減っているが、その裏で廃業が急増している背景を探っている。
コロナ時代の倒産の5つの「新常識」
帝国データバンクによれば、2020年の倒産件数は7809件で、2000年以降で2番目に少なかった。その一方で20年に休廃業・解散した企業の数は前年比14.6%増の4万9698社で、2000年以降で最多を記録した。
コロナ時代の倒産の5つの「新常識」を挙げている。
・「過剰債務」に陥る企業が急増。中小企業では3社に1社
・私的再生スキームの多様化で倒産にカウントされない「ステルス型」が急増
・建設・工事業など外食苦境が波及した「コロナ連鎖倒産」が増加
・コロナの終息が見えず、先行きを悲観した「諦め型」が続出
・「半導体不足」倒産も発生
特集の目玉は「倒産危険度」(Zスコア)から判断したワースト493社のランキングと、その中でもリスクの高いワースト20社とのやりとりだ。ワースト1位とされたRVHは、美容サービス大手ミュゼプラチナムなどを買収し、事業を拡大したが、コロナ禍の影響で採算性が悪化し、買収した事業を次々と売却し、レディスサービス事業から撤退。主力事業を切り離し、運転資本が激減したことからワースト1位になった。編集部の問い合わせに、RVHの回答はない。
回答がない企業も少なくないが、言い分や再建策を答えた企業もある。ワースト4位とされたアクセルマークは、ゲーム事業が収益の柱の一つだ。「赤字のゲーム事業を売却し、足元の広告事業は堅調で黒字。債務超過は解消した」と説明している。
また、10位のジャパンディスプレイ(JDI)は、「白山工場売却など構造改革を進め、バランスシートは改善した。23年3月期の営業黒字化を進める」と回答するなど、今後の再建策を語っている。「自社の現状を外部に説明できない企業にこそ、本当に"危険"な企業が潜んでいるのだろう」とまとめている。
倒産地獄を回避する「廃業のススメ」
ランキングに掲載されているからと言って、必ずしも倒産するとは限らない。電力や鉄道会社も入っているが、業種によってスコアが低めに出るそうだ。
危険度が1年前よりも悪化したワースト50社のランキングも掲載している。1位はカジノ向けゲーム機や不動産事業などを手掛けるピクセルカンパニーズ、2位は喫茶店を展開する銀座ルノアール、3位はオーダーメードスーツを手掛ける銀座山形屋だ。
また、監査法人によって「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)に関する注記」(GC注記)が付いた企業が26社ある。その中のオンキヨーホームエンターテイメント(電気機器)は、2期連続の債務超過を避けられず、8月1日に上場廃止になった。
木曽路やひらまつなど、有名な外食企業にも「イエローカード」が突き付けられていて、驚いた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で業績が悪化し、危うい財務状況に陥った企業は増えている。
この特集で興味深いのが、倒産地獄を回避する「廃業のススメ」をまとめていることだ。うまく活用すれば手元に資金が残る「勝ち組」に入ることもできる、と勧めている。
これまでに約850社の廃業や事業継承などの支援を手掛けた、事業継承デザイナーで司法書士の奥村聡さんは、「廃業」前提思考で決算書を見直し、会社の価値を把握することが大切だ、と説いている。利益が出ないなら早めの決断が必要だという。
コロナ禍で倒産件数が減り、休廃業や解散が増えている背景には、こうして見切りをつけた企業が少なくないのだろう。
週刊東洋経済で「ユニコーン企業」を探す
「週刊東洋経済」(2021年9月4日号)は「すごいベンチャー100」と題し、ユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)になりそうな100社を紹介している。連続起業家、女性起業家、大学発、フィンテックなどのカテゴリー別に100社を分けた。
また、ベンチャー企業への投資熱もまとめている。上半期の話題になったのが、人事労務のSaaS(クラウドで提供するソフトウェア)を手掛けるSmartHR(スマートHR)だ。今年6月に156億円の資金調達を発表、推定企業評価額は約1700億円となり、ユニコーンの仲間入りを果たした。
スマートHRのソフトを使えば、従業員は雇用契約や年末調整などの労務手続きをスマートフォンやパソコンで完結できる。人事労務担当者は集まったデータを役所への電子申請にそのまま使える。利用企業数は4万社を超え、特に従業員1000人以上の大企業の割合は3年前の約17%から40%に拡大した。
このほか、学習塾のAI教材を提供するアタマプラス、建設施工管理アプリを展開するアンドパッド、ウェブサイトやアプリの多言語化作業を効率化するウォーブンテクノロジーズ、iPS細胞による重症心不全の再生医療を開発するハートシードの4社の最新動向を紹介している。
100社の詳細は特集を見てもらいたいが、AI、SaaSを活用した企業が目立つ。ベンチャーへの投資が膨らむ中で、総合商社やコンサルティングなどから優秀な人材が集まり出した背景も探っている。「創業5年、30人程度の規模の会社で、CXO(各部門の最高責任者)級でなくても年収1200~1500万円を用意するケースが生まれている」など、1000万円以上の報酬を提示する企業が出てきたという。
ベンチャーキャピタル大手のDCMベンチャーズ日本代表の本多央輔氏は
「トレンドに左右されない『逆張り』の起業家に賭ける」
と話す。
米中と比べて日本はまだ成長初期と見ており、SaaSばかりが注目されている日本の現状に違和感を持っている。また、海外投資家が日本のベンチャーに大型投資をすることが増えたことについて、評価額がインフレ気味で、次の資金調達までに実態との乖離を埋める必要があり、株主や取締役に誰を入れるかを見極めた方がいい、とアドバイスしている。
ほとんど聞いたことがない100社ばかりだが、この中に次の「ユニコーン」候補が隠れているかもしれない。
「週刊エコノミスト」 欧州ではEVが主戦場に
「週刊エコノミスト」(2021年9月7日号)の特集は「EV世界戦」。電気自動車の5000万台市場を巡り、米欧中と日本の企業が繰り広げる戦いをリポートしている。
想定よりも早く2035年にEV販売は5000万台になると予測。出遅れた日本メーカーが追いつく戦略をまとめている。
なぜ、EV政策がEU(欧州連合)で加速したのか? 遠藤功治(SBI証券企業調査部長)氏は、脱炭素マネーが市場経済を動かす「ゲームチェンジ」があること、環境政策の名を借りた「保護主義」である、と指摘している。いずれにせよ、EUの自動車分野の「主戦場」はEVに完全に決まったと見ている。
ジャーナリストの土方細秩子氏は、米国で人気のピックアップトラックで脱ガソリンが進み、テスラをGMとフォードが猛追している、と書いている。フォードは「全世界での販売の40%を30年までにEV化」と発表、GMも35年までに全ての乗用車をEV化すると発表した。米国でEV販売の7割近くを占めるテスラのシェアは30年には2割前後になり、EV全体の販売台数は500万台に到達すると予想している。
中国は35年に新車の50%をEVに、残りをHVなどにとしている。フォルクスワーゲン、ダイムラー、ルノーなどの欧州勢は中国市場に最注力すると見られ、中国の地場企業は国内を開拓するようだ。
三菱UFJモルガンスタンレー証券シニアアナリストの杉本浩一氏は、日産とホンダの戦略を分析し、「険しい脱ガソリンへの移行、タイミングを誤れば死活問題」と書いている。 また、ジャーナリストの坂上翔氏は、EVはガソリン車より原価が6割高く、将来補助金が減額されれば逆風になると見ている。販売・広告宣伝関連費用を圧縮するため、「オンライン直販」がカギになると見ている。すでに、テスラは広告宣伝費を使わず、クルマを販売店ではなくオンラインで直販する方針を貫いている。
ダイムラーやボルボもオンライン販売を拡大しようとしている。日本メーカーはディーラーをどうするのか? 直販が常識になった時、幹線道路沿いに自動車ディーラーの販売店が林立する日本の都市の風景も様変わりするかもしれない。
EV化はそれくらいのインパクトを持っている。(渡辺淳悦)