飲食店情報サイトを運営する「ぐるなび」の株価が2021年8月26日に一時、前日終値比39円(8.8%)高の484円に急伸した。
前日25日に楽天グループなどを引受先とする第三者増資を行い、約33億円を調達すると発表。調達資金を料理宅配事業などへの投資にあてるとしていた。コロナ禍で成長する事業への期待や楽天と関係を強化することへの安心感などから買いが集まった。8月31日の終値は前日比12円高の480円だった。
ぐるなび予約に楽天ポイント付与で「楽天経済圏の一員」に
増資の枠組みを確認しておこう。ぐるなびと楽天は2018年に資本提携しており21年6月末現在、楽天はぐるなび株の14.96%を保有する筆頭株主だ。ぐるなびは19年から楽天創業以来のメンバーである杉原章郎氏(52)を社長に迎えている。創業者で大株主(増資前後を通じて2位)でもある滝久雄会長(81)は現役だが、7人の取締役のうち、杉原社長を含む3人が楽天から派遣されており、すでに楽天「傘下」に近い状況だ。
増資は10月4日を払い込み期日とする。楽天と、ソフトウェアが正しく作動するかのテストなどを手がけるSHIFTに各約10億円、滝会長と杉原社長に各約5億円などと割り当てる。この結果、筆頭株主の楽天の保有比率は16.84%となり、滝会長が12.88%、SHIFTが4.10%と続くことになる。
ぐるなびは楽天との提携により、これまでに「ぐるなびポイント」を「楽天ポイント」に交換できるようにしたほか、会員IDを連携。ぐるなびネット予約における楽天ポイントの付与など「楽天経済圏」の一員としての立ち位置を明確にし、リアル店舗内での飲食に伴う連携策を深めてきた。21年7月には楽天から引き継いだ料理宅配サービスを「楽天ぐるなびデリバリー」「楽天ぐるなびテイクアウト」と改称してスタート。今回の増資で得た資金のうち10億円をこの料理宅配サービスのテコ入れにあてるとしている。
飲食店で実際に飲食する「イートイン」の需要はコロナ禍で減退し、ぐるなびの業績をも直撃している。2021年3月期連結決算では売上高が前期比47.7%減の161億円にほぼ半減し、97億円の最終赤字を計上する事態となった。
22年3月期に入っても経営環境の改善はさほど進まず、21年4~6月期連結決算は最終損益が13億円の赤字(前年同期は37億円の赤字)だった。今夏の従業員賞与を半減するなど、待ったなしのコスト削減を迫られているのが実情だ。
激化する料理宅配、成長軌道に乗せられるか!?
今回の増資とその使い道について市場はひとまず歓迎した。ただ、料理宅配はコロナ禍のもとでの成長産業ではあるものの、ウーバーイーツ、出前館の2大勢力を中心に大小さまざまな業者が参入して競争が激しく、配達員の確保なども容易ではない。
楽天との関係強化は信用補完的な効果をも期待できる半面、事業活動が「楽天経済圏」にとどまってしまうリスクもゼロではない。
本業である飲食店への集客などの販促支援についても、ぐるなびのような業者に頼らず自らインスタグラムなどで情報発信し、フォロワーが注目する飲食店が増えている。そのため、かつてのような需要がないとの見方があり、コロナ収束後にも不安が残る。
楽天に頼りつつ赤字を脱却し、再び成長軌道に乗せる道は一筋縄ではいかない。(ジャーナリスト 済田経夫)