人口動態が示す、これからの中国と日本
さまざまな論点で、これからの世界や日本について語っているが、専門の人口動態からの分析が興味深い。まず、中国が世界を支配する国になるとまで思っていないというのだ。中国の優位は一時的なものだと見ている。それは人口動態上の弱みを抱えているからだ。
14億人という巨大な人口を抱えているが、人口動態はものすごい速度で変わりつつあるという。年齢構成が異常で、急速に高齢化している。さらに、高等教育を受ける人はまだ15%くらいだが、14億人の15%だから相当な人数になる。その結果、中国は二つに引き裂かれている。「高い学歴を持つすごい数の人材によって世界レベルで行動する大国でありながら、国内では不均等に苛まれている」。対外的には世界の大国でありながら、対内的には脆弱だ、と指摘している。
人口問題に直面しているのは日本も同じだ。少子高齢化という深刻な問題に見合う取り組みが始まっておらず、まだ高度成長期の若々しい社会のままだという「幻想」に浸っている、というのだ。解決策は経済の中ではなく、家族関係、男女の関係、なかなか進まない女性の解放に根があるという。
「日本が取り組まなければならないのは、教育を受けた女性が仕事もできるし子どもも持てる新しい社会を確立することです」
日本が人口動態危機に対応するには、出生率の上昇と移民の受け入れの両方が必要で、そのどちらかではなく、二つの課題を同時に進めなければならないという。移民を統合するにも子どもも増やさなければならない。
「民主主義国であるためにも、とにかく人口が必要です」というトッド氏の発言に、気分が暗くなった。つい先日紹介した「未来のドリル コロナが見せた日本の弱点」(河合雅司著、講談社現代新書)で、2021年の日本の年間出生数は過去最低の75万人程度まで減る可能性があり、政府の予想よりも18年も早いということが書かれていたからだ。
政府の悲観的なシナリオどおりに進めば、2065年には出生数は約41万6000人と、現在の半分以下になる恐れがある。
米中のどちらにつくかというようなことを考える前に、やるべきことがあるのではないか。コロナ禍が加速させる日本の人口減少。終息したら、安心して女性が子どもを産み、育てることができる社会を早急に再構築することが急務である。
そういう意味でも、先日、千葉県でコロナに感染した妊婦が入院できず、自宅で出産し、子どもが亡くなったという悲しいニュースは、すべての人に大きな衝撃を与えたのではないだろうか。日本が衰亡するかもしれない、予兆として。(渡辺淳悦)
「パンデミック以後」
エマニュエル・トッド著
朝日新聞出版
825円(税込)