五輪後の国内景気は視界不良! ワクチン接種で経済正常化のシナリオ、デルタ株で崩壊

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   東京オリンピックが終わり、パラリンピックが始まったが、新型コロナウイルスの感染拡大は収まらず、日本経済の先行きは不透明感を増している。

   ワクチン接種の進展につれて、人々の行動制限を徐々に緩和し、経済活動の正常化を目指すというシナリオは、デルタ株のまん延もあって見直しを迫られそうだ。

  • TOKYO2020のために建て替えた新国立競技場
    TOKYO2020のために建て替えた新国立競技場
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無観客五輪で「レガシー効果」は期待薄

   本来であれば、オリンピックで盛り上がった景気が終了とともに減速する「五輪の壁」が関心を集めているはずだった。実際には、海外からの観光客の当てが外れたうえ、国内でも無観客開催となって、テレビ観戦と「巣ごもり」で、テレビなどの家電販売、配食や家飲みの需要で一部潤ったところはあるものの、全体に「五輪後経済」が話題にもならない寂しい状況だ。

   もともと、五輪は大会開催に伴う競技場や交通網などのインフラ整備や、消費の盛り上がりで経済活動が活発化になっても、大会終了とともに景気が減速したり不況になったりすることがある。1964年の前回の東京五輪は競技施設のほか、東海道新幹線や高速道路などのインフラ整備で経済は頂点に達したが、その後は深刻な不況に陥り、五輪翌年の1965年には、政府は経済対策のため戦後初めて、赤字国債の発行を余儀なくされた。

   最近も、2000年のシドニー五輪、2004年のアテネ五輪後、その国の景気が低迷した例がある。

   もちろん、今回の東京は巨大なインフラ整備はなかったが、それでも招致決定以降、首都高の老朽化対策、首都圏の交通インフラ整備事業が前倒しで進み、また、JRや私鉄のホームへのエレベーターやホームドア設置などバリアフリー化も加速した。 東京五輪・パラリンピック組織委員会は2017時点で五輪による需要増加が2兆円弱と見込み、新国立競技場など施設整備費3500億円を除く1兆6500億円ほどは国内総生産(GDP)に寄与している。

   もとより、インフラ整備が「目玉」だった前回と比べて経済効果は限定的だったわけだが、むしろ、今回の期待は五輪をきっかけとする経済活性化だった。東京都は、直接効果以外に「レガシー効果」で12兆2397億円の新たな需要が生まれると弾き、たとえば観光では東京を訪れる外国人旅行者数の目標を20年2500万人、24年3000万人としていた。

   コロナ禍、五輪の無観客化でこうしたシナリオは崩れ、20年の外国人旅行者の実績は約252万人にとどまった。

好調な企業業績、個人消費は伸び悩み

   五輪の経済への効果が議論にならないレベルだった一方、引き続きコロナ禍の影響が経済を大きく左右する構図が続いている。

   五輪が終わり、全体に日本経済は低迷が続き、コロナ禍前レベルの回復が遅れる一方、企業業績は好調というのが、現在の特徴だ。

   まず、良いほうを見ておこう。SMBC日興証券の集計では、東証1部上場の3月期決算の企業(金融、及び金額が大きく振れも大きいソフトバンクグループを除く)の21年4~6月期決算は、最終利益が前年同期の5.2倍になり、うち製造業が12.2倍、非製造業が2.7倍と、製造業の回復ぶりが顕著だ。

   22年3月期通期の見通しも全体で前期比44.5%増、製造業が32.4%増、非製造業が66.7%増を見込んでいる。

   日産自動車が通期予想で最終損益が従来の600億円の赤字から600億円の黒字転換、日本製鉄が黒字を従来予想の2400億円から3700億円に上方修正するなど製造業で上方修正が相次ぐ。いち早く新型コロナウイルスを抑え込んだ中国をはじめ、ワクチン接種の進展で経済活動が正常化に向かう海外の需要を取り込んだ効果が大きい。

   非製造業でも、合理化に加え、海外経済回復の恩恵を受けた海運が、日本郵船の予想黒字額の上方修正(3500億円から5000億円に)など好調だが、航空業界は赤字から脱する見通しは立たず、鉄道など陸運は通期ではやっと黒字を確保できそうという程度で、小売りやサービスなども厳しい状況が続くというように、明暗が分かれる。

   こうした明暗の偏りがGDP統計にも出ている。21年4~6月期のGDP第1次速報(8月16日発表)は、物価の変動を除いた実質で、前期(1~3月期)比年率換算1.3%増と、2四半期ぶりにプラスにはなったが、1~3月期に3.7%減と大きく落ち込んだ分を取り戻せなかった。実額(年換算)は約539兆円と、コロナ禍前の19年10~12月期の約547兆円を8兆円以上も下回る。

   不振の最大の要因はGDPの半分以上を占める個人消費の弱さだ。4~6月期は0.8%増と2四半期ぶりにプラスにはなったが回復力は弱い。3度目の緊急事態宣言の時期と重なるなか、巣ごもり消費に加え、自粛疲れで一部の消費が持ち直し、辛うじてプラスを確保したといえる。

   これに対して好調だったのは設備投資で、テレワークへの対応などにより1.7%伸びた。輸出も海外経済の回復を受けて2.9%増と4四半期連続でプラスになった。ただ、ワクチン確保などがあって輸入も5.1%の大幅増になり、輸出入を差し引いた外需としては0.3%減とマイナスに沈んだ。

「日本は一段と厳しい状況に陥る」

   今後の見通しも「明かり」は見えない。ワクチン接種の加速で7~9月期以降は経済活動が本格的に回復に向かい、GDPは年内にはコロナ前の水準を回復するというのが政府のシナリオだ。西村康稔経済再生担当相はGDP発表の会見で「見通しを変える必要はない」と」強弁したが、4度目の緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が拡大、延長されており、むしろ東京などで「災害級」「崩壊」という声も上がるような医療体制のひっ迫する中で、消費の回復は当面期待薄。

   感染が収まってくれば、抑えられてきた消費が反動で急拡大する「リベンジ消費」への期待は大きいが、あるとしても、後ずれは避けられないところだ。

   輸出増という恩恵を日本にもたらしてきた海外経済にも陰りが見える。デルタ株が猛威を振るい、欧米で新規感染者数がここにきて日本を上回るペースで増えており、再度の経済活動の抑制の動きも出ている。

   アジアでは感染拡大で工場の操業が止まるなどの混乱が広がり、日本にも部品調達の遅れなどの影響が出始めており、たとえばトヨタ自動車は9月の世界生産を4割減らすという。

   国際通貨基金(IMF)は7月末に発表した世界経済見通しで、先進国全体の2021年の成長率を5.6%と0.5ポイント上方修正した中で、日本は2.8%と0.5ポイント下方修正した。その後、デルタ株で世界全体、先進国全体も下振れの恐れが出てきており、ただでさえ出遅れていた日本は、一段と厳しい状況になる可能性もある。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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