正社員の人手不足が再び上昇傾向にあることが、帝国データバンクの調べでわかった。2021年8月24日の発表。
現在の正社員の過不足状況を聞いたところ(「該当なし/無回答」を除く)、正社員が「不足」していると答えた企業は 40.7%。依然として2019年7月の水準と比べて7.8ポイント下回っているものの、前年同月比でみると10.3ポイントの増加。20年5月の29.1%を底に、再び上昇傾向がみられる。
最低賃金の引上げ幅は28円で過去最大
直近の雇用情勢をみると、新型コロナウイルスの影響による解雇等見込み労働者数(累積値)は、2021年8月13日時点で11万3272人。月次ベースでは減少傾向にあるものの、21年7月も3586人と、多くの労働者が解雇・雇い止めされている(厚生労働省調べ)。
その一方で、今年6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.13倍で、5月から0.04ポイント上昇。新規求人数(原数値)は製造業、サービス業、教育・学習支援業などで増加した。ただ、宿泊業や飲食サービス業では新規求人数が減少するなど、業種によってバラつきがみられる。
また、厚労省の中央最低賃金審議会(小委員会)は7月14日に、21年度の地域別最低賃金の改定で、全国平均の時給を930円とする目安をまとめた。最低賃金の引上げ幅は28円と過去最大。コロナ禍にあって、経営者側からは不満が漏れた。
そうしたなか、帝国データバンクの調査によると、正社員が「人手不足」と答えた企業は 40.7%で、新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年の水準は下回るものの、上昇傾向にあることがわかった。建設業や自動車関連など業種によって人手不足感は再び高まりつつある。
人手が「適正」と答えた企業は45.7%(前年7月比1.1ポイント減、19年7月比3.5ポイント増)、「過剰」と答えた企業は13.6%(同9.3ポイント減、同4.3 ポイント増)だった。
人手が「不足」している企業を規模別にみると、「大企業」で46.2%(同9.3ポイント増、同13.1ポイント減)、「中小企業」は39.6%(同10.7ポイント増、同6.3ポイント減)、「中小企業」のうち「小規模企業」は36.2%(同 5.9 ポイント増、同 5.9 ポイント減)となった。
正社員の人手不足の割合は、すべての規模で20年5?6月以降、上昇傾向が続いている。
景気「K字回復」で業種ごとに温度差
業種別にみると、少子高齢化などの影響により職人不足が進む「建設」が57.5%(前年7月比5.6ポイント増、19年7月比10.0ポイント減)と、6割弱が人手不足を感じており、51業種で最も高かった。
建設業者からは、
「業界内の企業及び職人が不足しているので、受注機会が多い」(一般管工事、長野県)
「2020年の工事の見合わせ物件、雪害の改修工事などで人手不足感がある」(金属製屋根工事、秋田県)
といった声があがった。
また、「自動車・自動車部品小売」が57.1%、(同10.9ポイント増、同2.9ポイント減)や「輸送用機械・器具製造」は47.3%(同35.2ポイント増、同11.5ポイント増)などと、自動車関連の業種も人手不足感が高かった。なかでも、「輸送用機械・器具製造」は前年7月比で35%超、2019年7月比でも10%を超える大幅な上昇となった。
さらに、IT人材の不足が目立つ。「情報サービス」は54.7%(同10.2ポイント増、同19.3ポイント減)も高水準での推移が続いている。
一方で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大きな打撃を受けている「旅館・ホテル」や「飲食サービス」などの業種では、人手の過剰感が依然として高水準にある。
正社員の人手が「過剰」とする企業を業種別にみると、「旅館・ホテル」が42.5%でトップ。「旅館・ホテル」は1年前の20年7月(57.6%)時点でもトップで、人手過剰感は依然として高水準で推移している。
また、「医薬品・日用雑貨品小売」やアパレル関連の「繊維・繊維製品・服飾品卸売」「繊維・繊維製品・服飾品製造」、イベントの中止や印刷需要の減退などが響いている「出版・印刷」「広告関連」が上位にあがった。
企業の景況感は業種によって「K字回復」の様相が強まりつつあり、雇用情勢も業種によって温度差がみられる。
ちなみに、2021年7月に非正社員が「不足」していると答えた企業(「該当なし/無回答」を除く)は22.5%(前年7月比5.9ポイント増、19年7月比7.3ポイント減)。「適正」と答えた企業は66.5%(同4.3ポイント増、同3.9ポイント増)、「過剰」は11.0%(同10.2ポイント減、同3.3ポイント増)だった。
なお調査は、2021年7月15日~31日にTDB景気動向調査(2021年7 月調査)とともに実施。全国2万4285社が対象で、有効回答企業数は1万992社(回答率 45.3%)。