コウモリ由来のウイルスが多い
SARS発生以来、コウモリ由来のコロナウイルスの探索が活発に行われるようになり、中国、ヨーロッパ、アフリカでSARSのようなコロナウイルスが数多く発見されてきた。とくに中国では野性動物を好む伝統的な食習慣があることから、コウモリ由来のウイルスが発生するホットスポットがあることを警告する科学者もいた。
2016年に中国広東省の農場で子ブタがコロナウイルスで下痢になり大量死した。これが新型コロナウイルスと関連があるらしいという憶測が流れ、「新型コロナウイルス生物兵器説」のきっかけになったことを紹介している。
英国、米国、オーストラリアの5人のトップクラスのウイルス専門家が連名で、このウイルスは人工物ではなく、明らかに自然の産物であるという見解を、2020年3月に「ネイチャー・メディシン」誌に発表したことにも触れっている。
新型コロナウイルスについて、さまざまな本を紹介してきたが、本書は著者が実際にウイルスを扱って研究してきた点がユニークである。いかに感染リスクをコントロールして実験室感染を防止するのが重要であるかが説かれている。そのため、バイオハザードの歴史について書いてあるのが異色だ。
アメリカのCDC(疾病対策センター)のレベル4実験室の詳細が書かれている。世界ででは20か国に50以上のレベル4実験室がある。日本のレベル4実験室は、世界で米英、南アフリカに次ぐ4番目に東京都武蔵村山市に建設されたが、稼働を始めるまで40年近くかかった経緯が書かれている。
国立予防衛生研究所のレベル4実験室は1980年に完成した。グローブボックス方式で、ウイルスはすべて完全密封のステンレススチールのキャビネットの中に封じ込まれる。ところが、地元が反発し、35年にわたり、レベル4実験室でレベル4のウイルスを用いる実験が許されなかったという。その間、CDCの実験室を使わせてもらった。2015年、西アフリカでエボラ出血熱の大流行が起きていた際、やっと診断や治療目的に限定してレベル4での使用が認められた。
エマージングウイルスがコウモリなどの野性動物を介して感染することが、本書を通じて力説されている。野性動物の輸入大国だった日本も感染症法の改正などにより、ようやく輸入禁止や届け出制になった。
野性動物の生息域に人間が入り込む機会が増え、エマージングウイルスの感染が増えた。野性動物が相手だから、根絶することは難しく、「共生」するしかない、と結んでいる。新型コロナウイルスがいずれ収束しても、また新しいエマージングウイルスが出現することが予想されるからだ。ウイルスと人類の戦いは続く。(渡辺淳悦)
「ウイルスの世紀」
山内一也著
みすず書房
2970円