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ワクチンに慎重だった免疫学者が考えを変えたワケ【新型コロナウイルスを知る一冊】

   新型コロナウイルスの感染拡大が進むなか、国内の新規感染者は連日2万人を超え、軽症者や一部の中等症の人は、入院できず、自宅療養を余儀なくされている。止まないコロナ禍にあって、あらためて新型コロナウイルスがもたらした影響や対策について、関連本とともに考えてみたい。

   新型コロナウイルスのワクチンの接種が、日本でもだいぶ進んできた。2021年8月下旬に2回目の接種を受けた人は4割を超えた。しかし、「新型コロナウイルスはただの風邪」とか「新型コロナワクチンは危険だ」など、ワクチンを忌避する声もある。

   本書「新型コロナワクチン本当の『真実』」は、免疫学者が最新の科学的知見を分析して、不安や疑問に答えた本である。「嫌ワクチン本」についてもその間違いを指摘している。

「新型コロナワクチン本当の『真実』」(宮坂昌之著)講談社
  • 新型コロナワクチンは危険なのか!?(写真はイメージ)
    新型コロナワクチンは危険なのか!?(写真はイメージ)
  • 新型コロナワクチンは危険なのか!?(写真はイメージ)

筆者は当初「当面ワクチンを打たない」と......

   著者の宮坂昌之さんは、大阪大学大学院医学系研究科教授などを歴任、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授。専門は免疫学。「標準免疫学」「新型コロナ 7つの謎」などの著書がある。

   意外だったのは、宮坂さんが新型コロナワクチンに対して、当初慎重な意見を持っていたということだ。ファイザー、モデルナのmRNAワクチンが世界で初めて実用化されるワクチンであること、開発期間がきわめて短期間で、副反応についての臨床治験データが十分でないこともあり、昨年(2020年)11月の時点では「私は当面ワクチンを打たない」と取材に答えていた。

   しかし、その後、イスラエル、英国、米国のデータが集まり、2021年2月には米国のCDC(疾病対策センター)が、約2300万人の副反応データから、「重篤な副反応の頻度は従来のワクチンと同等」という分析結果を発表。臨床試験のデータどおりにきわめて優れていることがわかり、宮坂さんは意見を変えたという。

   mRNAワクチンは、「感染予防」「発症予防」「重症化予防」というワクチンに求められる「3本の矢」がすべてそろっており、「打たないという選択肢はない」と書いている。

「新型コロナウイルス感染症はただの風邪ではない」
「新型コロナワクチンは本当に効くのか?」
「新型コロナワクチンは本当に安全か?」
「ワクチンはそもそもなぜ効くのか?」

などのテーマで章を設けている。

デルタ株にもワクチンは有効か?

   いま一番関心が持たれている「インド型変異株(デルタ株)にもワクチンは有効か」という問題にも答えている。英国公衆衛生庁が発表したデータや英国の研究グループが医学誌「Lancet」に発表した論文をもとに、ファイザー製ワクチンの2回接種により、インド型を含む種々の変異株に十分対応が可能であることが示唆されているという。そして、こう呼びかけている。

「変異株は抗体が効きにくいからワクチンが効かないかもしれないという単純な議論は終わりにしましょう」

   それでも新型コロナワクチンに危険性はないのか? と心配する人もいるだろう。現時点では発生していない未知のリスクだ。その可能性は非常に低いという。

   理由の1つは、mRNAワクチンに使われるmRNAは体内で増えず、投与後、1日半ぐらいの寿命しかなく、いずれ完全に分解されるからだ。そもそもmRNAワクチンに含まれるのはウイルスの遺伝情報のごく一部にすぎず、それだけでは病原性や感染性を発揮することもない。

   また、mRNAワクチンの遺伝子からDNAが合成されることはないので、長期的に影響を受けることもないという。

   アストラゼネカ製のウイルスベクターワクチンについても原理を説明し、問題はないことを詳しく説明している。

   副反応など心配な点についても詳しく解説した上で、ワクチン接種を見直すほどの「重大な懸念」は発生していないと判断している。6月25日に厚労省は、ワクチン接種を受けた約2500万人のうち、これまでに356人の死亡を確認したと公表したが、この死亡例は「副反応による死亡例」ではなく、「有害事象」だと説明する。

   因果関係のはっきりしない「灰色判定」の大半は、ワクチン接種と関係のない偶発的な事象がかなりの割合を占めると、宮坂さんは見ている。

「嫌ワクチン本」の誤り

   さて、新型コロナワクチンが有効だということになると、これを否定してきた「嫌ワクチン」派の学者は何を言ってるんだ、ということになる。本書は2つの章を使い、テレビのコメンテーターとして登場してきた学者、「嫌ワクチン本」を書いた学者らの科学的な誤りを具体的に批判している。

   その一人、「患者よ、がんと闘うな」などで知られる、元慶応義塾大学医学部専任講師の近藤誠氏の「こわいほどよくわかる 新型コロナとワクチンのひみつ」(ビジネス社)について、「ワクチンの予防効果に関する最新のデータが収録されていないうえ、なおかつその解釈は非常に恣意的に感じられました」と、批判している。また、ワクチン接種後の死亡はすべてワクチンが原因と決めつける近藤氏の解釈にも疑問があるという。

   新型コロナウイルスに関連する多くの本を紹介してきたが、本書が最新のデータに基づき、それらの出所も明らかにしているという点で信頼できる。

   テレビによく出ている医師や学者も名前を挙げて批判している。彼らが登場する日本のメディアの科学リテラシーは「残念ながら総じて低い」とも。現時点で、最も信頼できる「コロナ関連本」の一つである。(渡辺淳悦)

「新型コロナワクチン本当の『真実』」
宮坂昌之著
講談社
990円(税別)