コロナ禍後の世界、日本は米中の狭間でどう生きるのか?【新型コロナウイルスを知る一冊】

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   東京オリンピックの閉幕とともに、新型コロナウイルスの感染拡大がまたクローズアップされてきた。国内の新規感染者は連日2万人を超え、軽症者や一部の中等症の人は、入院できず、自宅療養を余儀なくされている。

   あらためて新型コロナウイルスがもたらした影響や対策について、関連本とともに考えてみたい。

   コロナ禍という未曽有の大惨事を経て、世界情勢は大きな変化を遂げた。アメリカではバイデン新政権が誕生し、国際協調路線を推し進めている。

   他方、中国は「ワクチン外交」を繰り広げ、世界的に影響力を拡大しようとしている。米中の狭間で、日本はどう生きるのか? 思想家の内田樹さんと政治学者の姜尚中さんが縦横に語り合った対談集である。

「新世界秩序と日本の未来」(内田樹・姜尚中著)集英社
  • 対立する米中の挟間で日本はどう生きるのか!?
    対立する米中の挟間で日本はどう生きるのか!?
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世界史の舞台の中心に東アジアが浮上

   著者の一人、内田樹さんは神戸女学院大学名誉教授。著書に「日本辺境論」などがある。もう一人の姜尚中さんは東京大学名誉教授。著書に「悩む力」、「朝鮮半島と日本の未来」などがある。

   二人の対談集としては「世界『最終』戦争論」、「アジア辺境論」があり、本書が3冊目で、息が合った内容になっている。

   貿易摩擦や新型コロナウイルスの起源、ウイグルや香港の人権問題で、このところ二つの超大国は激しく覇権を争っている。この対立が人類史的にどのような意味を持つのか、姜さんが最初にこう見立てている。

「近代史上初めて、世界史の舞台の中心に東アジアが浮上してきたということである」

   ここでいう「東アジア」とは、中国だけでない。今後、台湾、朝鮮半島、そして日本を含むこの地域こそが、世界の行方を左右する鍵を握ることになる、と見ているのだ。意外なことだが、姜さんは地政学的観点から説明している。中国の習近平主席が打ち出した「一帯一路」構想は、ユーラシア大陸のハートランド(中核部)とリムランド(周縁部)の双方を中国の色で染め上げるという地政学的なものだという。

   一方、アメリカを中心としたG7のメンバーである欧米諸国は、対中国のもとで「シーパワー」陣営(海洋国家連合)を形成し、オーストラリアも加わろうとしている。

   現在まさに台湾や朝鮮半島、香港、尖閣諸島で生じているさまざまな軋轢は、これらの地域がスケールの大きい、しかも濃密な地政学的対立の前線を形成していることに関係していると考えている。そうした中で、日本にとっての選択は、単に米中のどちらかにつくかという二者択一ではなく、中規模国家として生き残るための「第三の道」があるはずだと説く。

PCR検査数が少なさに日本的破局の有り様

   さらに歴史的な観点も導入している。大恐慌後に国家と社会の構造的な転換があったことを挙げ、コロナ禍によって、国と社会のありようが4つの類型に分類できると整理している。

A「強い国家」と「弱い社会」(独裁政権等の専制国家)中国が進もうとしている。
B「弱い国家」と「強い社会」(成熟した民主主義国家)
C 「強い国家」と「強い社会」(社会が国家を信頼し、非常時などに私権の制限を許容する)
D「弱い国家」と「弱い社会」(社会が国家を信頼できず、また国家も社会を統制できない)

   ドイツは本来、Bであったが、コロナ禍では一時的にCになったと説明し、日本はDになっていると危惧している。コロナ禍を生き抜くには、当然、Cであるべきだ、と姜さんは指摘する。

   こうした問題意識で、2013年からの安倍政権、アメリカ、中国、「新冷戦」時代の中国、日本の生きる道を論じている。内田さんのコロナ関連の発言をいくつか拾ってみよう。

内田 「アメリカはもう中国に製造業のアウトソーシングをするのは止めるでしょうね。今回のコロナ禍でも、マスクや防護服などの医療資源の多くの製造を中国に頼っていたせいで、いざというときアメリカ国内に感染症のための医療資源の戦略的備蓄がほとんどなかった。薬品や医療品のような戦略的物資は、これからは割高でも国産にシフトすると思います」
内田 「2020年の3月に米海軍の空母セオドア・ルーズベルト号でコロナ感染者が出て、同空母は作戦行動を中止してグアムに投錨しました。そのことで、狭いところに人が密集する艦船、全員が斉一的な行動をとる軍隊、乗員が同じ空気を吸う潜水艦などは感染症にたいへん弱いことがわかった。ということは空母や原潜を駆使する軍事行動は感染症が収まるまではしばらく抑制せざるを得ないということなんです。(中略)だから、アメリカは今テクノロジーの進化がゲーム・チェンジャーになるのを待っているんだと思います」
内田 「日本のPCR検査数が少ないのは、一貫した戦略があってのことじゃないと思います。たぶん去年の初めのうちは夏にオリンピックをやるつもりだったから、感染者数を増やしたくなかった。感染しても無症状で終わる人が多いらしいから、検査さえしなければ感染者数は低く抑えられるという計算が政府にはあったと思います」

日本が中規模国家構想に向けて動き出す

   「なんとなくあまり熱心にやらない方がいいみたい」という「空気」が醸成され、そうなったと見ている。典型的な日本的破局のありようだと指摘している。

   最後に内田さんは日本のいろいろダメなところも指摘したが、日本の今後についてはそれほど悲観していないと語っている。日本の政治文化の未成熟さが行きつくところまで行き、潮目が変わったというのだ。

   そして姜さんもまた、あまり悲観的ではないという。

「ポストコロナ時代がいつになるかはわかりませんが、コロナ禍を通じて、日本がやっと中規模国家構想に向けて動き出す始まりとなるのではないかと思います。そして、そこにこそ日本の新しい出発点があるはずです」

と結んでいる。

   日本の実力に合った中規模国家への「縮み方」という発想は、いまだに日本が世界の大国であると考えている人には耐えがたいかもしれない。しかし、今や一人当たりGDPは世界33位となり、さまざまな指標で日本が中位国であることは明白である。

   今回のオリンピックの金メダルの数に満足し、日本が大国であるかのような幻想に浸っている暇はない。大英帝国が「帝国の縮減」を計画的に行った、という内田さんの指摘にうなずいた。(渡辺淳悦)

「新世界秩序と日本の未来」
内田樹・姜尚中著
集英社
946円(税込)

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