「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
8月16日発売の「週刊ダイヤモンド」(2021年8月28日号)は、「安すぎ日本 沈む給料 買われる企業」を特集。いまや日本は先進国の中では「安い国」になってしまった。給料は上がらず、不動産や企業には「安くてお得」だと海外マネーの買いが入る。その実態と資産を守る方策をまとめている。
実質的には先進国の中で最低の日本の「最低賃金」
日本の最低賃金は額面では、先進7か国(G7)で上から5番目だが、イタリアには法定の最低賃金制度がないため、正確には6か国の中で5番目だという。トップのフランスに比べると、日本は約3割低く、最下位の米国より約1割高い。
しかし、統計に使われている米国の最低賃金は連邦政府が定めた金額であり、実際には6割の州がこれより高い最低賃金を定めているので注意が必要だ。カリフォルニア州は時給14ドル(約1530円)。実態としては米国の労働者の8割近くが時給15ドル(約1640円)という米ワシントン・ポスト紙の報道を紹介している。
10月から引き上げられる日本の最低賃金(全国の加重平均)は930円だから、本当の最下位は日本だ、と指摘している。
安いのは最低賃金ばかりではない。平均賃金でも日本の低さが際立つ。OECD加盟国の平均賃金(年間)を見ると、35か国中で日本は22番目。金額は3万8514ドル(約423万円)で、トップの米国は6万9391ドル(約763万円)だから、率にして44%の大差が開いている。
また、この20年間の上昇率を見ると、日本はたった0.2%しか上がってない。米国は25.3%増、カナダは25.3%増、韓国は43.5%増だ。韓国には2015年に平均賃金で逆転された。
給料が安くて困るのは、働く人だけではない。企業の生産性が上がらなくなり、経済全体に大きな影響を及ぼす。菅義偉首相のブレーンで、政府成長戦略会議有識者メンバーのデービッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社長)が、特集誌面で最低賃金の値上げに反対する、日本商工会議所の三村明夫会頭を名指しで批判しているのに注目した。
「三村氏は中小企業を代弁している立場ではありますが、あまりに最新の経済学を理解していない。そして部分的なデータを恣意的に全体に当てはめ、議論をすり替えている」
「近年の経済学の実証研究では、賃金の引き上げと生産性向上の間には密接な因果関係があり、賃金を上げることは生産性向上に資するという結果が出ています」
最低賃金を急激に引き上げたため、韓国経済は混乱し、大失敗したというのは俗説で、韓国は19年に労働生産性、20年に国全体の生産性の両面で日本を追い越したことを紹介。そして、最低賃金は企業が対応できるように、毎年段階的に上げるべきだ、と主張している。
パート2では、「世界標準の給料をつかめ」と題して、業界別に各社の平均年収と海外企業の年収を比較しているのも興味深い。たとえば、自動車業界。トップのトヨタ自動車の平均年収は858.3万円だが、独フォルクスワーゲンのソフトエンジニアの年収は約1612万円、米テスラは約1358万円である。「日本勢の給料が安いと、優れたグローバル人材の獲得合戦で劣後することが確実だ。人材で劣れば技術開発競争でも後れを取り、最終的には販売台数や業績でも負けていく恐れがある」と警告している。
さらに、パート3では資産防衛のため、資産を日本から「脱出」させる方策を紹介している。具体的には、ドル建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)、東証上場の米国の株価指数連動型ETF(上場投資信託)、金の3商品だ。手軽さと手数料の安さから、ETFから始めるのを勧めている。
荷物1個100円で配達するドライバー
「週刊東洋経済」(2021年8月28日号)は、コロナ禍で需要が爆発した宅配業界に焦点を当てている。題して「アマゾンのヤマト外しで異次元突入 物流頂上決戦」。利用者にも気になる特集だ。
まず、アマゾンが火をつけた物流の陣取り合戦をレポートしている。新型コロナウイルスの感染拡大による消費の巣ごもり化を受け、ネット通販(EC)の売り上げが急拡大。2020年度の取扱個数は前年度比11.5%増の47.85億個となった。大手宅配3社はその恩恵を受け、とりわけヤマト運輸は前期比16.5%増と伸びた。
しかし、こうした統計には宅配の「新興勢」が含まれていないというから驚いた。アマゾンが地域ごとに委託する配送業者「デリバリープロバイダ」や、個人と直接業務委託契約を結ぶ「アマゾンフレックス」はカウントされていないというのだ。
自前物流を請け負う新興勢を含めれば、合計の取扱個数は「優に60億個を超える」という物流関係者の見方を紹介。新興勢に押されて、一部では大手の配送単価が下落しているという。
ヤマトはアマゾン以外の顧客を開拓するため、ヤフーの親会社Zホールディングスと業務提携。サイズ別全国一律配送料金を設定、値下げに踏み切った。日本郵便も楽天と物流に関する合弁会社を設立。楽天からの受託する荷物が増えることを期待している。
また、イオンやセブン&アイ・ホールディングスも食品系のEC市場を狙い、自前物流の拠点をつくろうとしている。
アマゾンとヤマトの蜜月が完全に終わり、異次元の競争に突入した、と結んでいる。
パート2では、ECの活況に反して苦境に立たされているドライバーの実情を取り上げている。アマゾンのデリバリープロバイダの下請けドライバーは、以前1日130個運んでいたが、5月以降の平均は160個前後と2割ほど増え、多い日には210個、と話している。
しかし、いくら荷物が増えても日当制なので、どれだけ多く運んでも報酬は1万5000円のままだ。荷物1個100円で配達しているというのだ。また、コロナ禍で参入するドライバーが増えたため、競争も激しくなっているという。アマゾンと直接、業務委託契約する「アマゾンフレックス」の個人ドライバーが増えているからだ。
「トンネルの出口」見えない鉄道業界
「週刊エコノミスト」(2021年8月31日号)は、コロナ禍で乗客が減り、大手19社全社が赤字に転落した鉄道業界の緊急事態をレポートしている。各社は需要減を前提とした経営へ転換を急ぐが、「トンネルの出口」は見えないというのだ。
金融アナリストの松田遼氏が2021年3月期を中心に大手19社(上場JRグループ4社、大手私鉄15社)の決算を分析している。19社全体の営業収益は、前年度から34.5%減少。全社が赤字に転落した。
今期について、JRグループ4社は、新幹線の利用率回復などもあり、4社では営業収益が20年3月期の平均7割の水準まで回復すると見込んでいる。ただし、純利益は低迷が続きそうだ。
減収率が最も大きかったのはJR東海の55%減、これに近鉄グループホールディングスの41%減、JR西日本(40%減)、JR東日本(40%減)が続く。
鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が生き残り戦略を探っている。鉄道事業は費用に占める固定費の割合が90%前後と極めて高く、大手私鉄でも旅客数の減少率が21.8%を超えると採算割れしてしまうそうだ。
各社とも今まで聖域とされてきた人件費の削減など固定費削減の動きもあるという。JR東日本やJR西日本などは駅業務の合理化を目指して遠隔監視システムの拡充を図る。近鉄の場合、19年度末に約7200人だった社員数は24年度には約6600人になるという。
ワンマン運転化もJR東日本の京浜東北線、東急の東横線で計画され、JR東日本やJR九州では無人運転の研究も進めている。
大手私鉄の鉄道部門以外では、固定費の削減に加えて保有資産の圧縮の動きもあるという。西武ホールディングスなどが一部のビルやホテルを売却し、資金の創出を図っている。
また、自社の沿線での利用者の取り込みを狙い、東急などが沿線でのマンション建設を進めている。
輸送のライフラインである鉄道がコロナ終息やワクチン普及による需要回復まで持ちこたえられるか、一部では値上げや定期の割引率の引き下げを模索する動きもある。「体力勝負の様相を呈している」と編集部では見ている。
コロナ禍前は月に1回は新幹線を利用し、月2万円ほどの定期を買っていた評者だが、コロナ後は、ほぼ鉄道を利用する機会がなくなった。なんとか鉄道に生き残ってほしい、と特集を読み、切望した。(渡辺淳悦)