「トンネルの出口」見えない鉄道業界
「週刊エコノミスト」(2021年8月31日号)は、コロナ禍で乗客が減り、大手19社全社が赤字に転落した鉄道業界の緊急事態をレポートしている。各社は需要減を前提とした経営へ転換を急ぐが、「トンネルの出口」は見えないというのだ。
金融アナリストの松田遼氏が2021年3月期を中心に大手19社(上場JRグループ4社、大手私鉄15社)の決算を分析している。19社全体の営業収益は、前年度から34.5%減少。全社が赤字に転落した。
今期について、JRグループ4社は、新幹線の利用率回復などもあり、4社では営業収益が20年3月期の平均7割の水準まで回復すると見込んでいる。ただし、純利益は低迷が続きそうだ。
減収率が最も大きかったのはJR東海の55%減、これに近鉄グループホールディングスの41%減、JR西日本(40%減)、JR東日本(40%減)が続く。
鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が生き残り戦略を探っている。鉄道事業は費用に占める固定費の割合が90%前後と極めて高く、大手私鉄でも旅客数の減少率が21.8%を超えると採算割れしてしまうそうだ。
各社とも今まで聖域とされてきた人件費の削減など固定費削減の動きもあるという。JR東日本やJR西日本などは駅業務の合理化を目指して遠隔監視システムの拡充を図る。近鉄の場合、19年度末に約7200人だった社員数は24年度には約6600人になるという。
ワンマン運転化もJR東日本の京浜東北線、東急の東横線で計画され、JR東日本やJR九州では無人運転の研究も進めている。
大手私鉄の鉄道部門以外では、固定費の削減に加えて保有資産の圧縮の動きもあるという。西武ホールディングスなどが一部のビルやホテルを売却し、資金の創出を図っている。
また、自社の沿線での利用者の取り込みを狙い、東急などが沿線でのマンション建設を進めている。
輸送のライフラインである鉄道がコロナ終息やワクチン普及による需要回復まで持ちこたえられるか、一部では値上げや定期の割引率の引き下げを模索する動きもある。「体力勝負の様相を呈している」と編集部では見ている。
コロナ禍前は月に1回は新幹線を利用し、月2万円ほどの定期を買っていた評者だが、コロナ後は、ほぼ鉄道を利用する機会がなくなった。なんとか鉄道に生き残ってほしい、と特集を読み、切望した。(渡辺淳悦)