東京オリンピックの閉幕とともに、新型コロナウイルスの感染拡大がまたクローズアップされてきた。国内の新規感染者は連日2万人を超え、軽症者や一部の中等症の人は、入院できず、自宅療養を余儀なくされている。
あらためて新型コロナウイルスがもたらした影響や対策について、関連本とともに考えてみたい。
新型コロナウイルスによるアメリカ国内の死亡者数は、2021年6月に60万人を超え、累計感染者数は約3350万人に達し、ともに世界最多となった。なぜ、こうした「失敗」が起きたのか?
本書「最悪の予感 パンデミックとの戦い」は、トランプ米大統領(当時)やCDC(疾病対策センター)がリスクを軽視するなか、一部の人たちがパンデミックを予想し、それぞれが活動していたことを描いたノンフィクションである。
全米でベストセラーとなり、映画化される予定だ。
「最悪の予感 パンデミックとの戦い」(マイケル・ルイス著、中山宥訳)早川書房
アメリカにもあったパンデミック対策の計画
著者のマイケル・ルイスは、「マネー・ボール」「世紀の空売り」などで知られる作家。アメリカで著書累計は1000万部を超える。
ベストセラーの書き手だけあって、書き出しは意表を突いている。2003年、ニューメキシコ州アルバカーキの13歳の少女が、パソコンのモニターの中を動き回る緑や赤の小さな点を観察している場面から始まる。国立研究所に勤める父親は「エージェント・ベース・モデル」という人間の行動を予測するモデルの一つであることを説明する。やがて、高校生になった彼女は、「インフルエンザはつねに変異している。もし、適切なワクチンが間に合わない場合、わたしたちはどうしたらいいのか?」という問題に取り組んでいた。
ここで場面は転換し、次にカリフォルニア州サンタバーバラ郡の保健衛生官の女性医師が登場する。CDCがあまり実務に役立たないことが、さまざまなエピソードで描かれている。CDCの姿勢の根底にあるのは、あとになって非難されるような行動を取りたくないという「恐れ」だったという。
「理屈では、CDCはアメリカの感染症管理システムの頂点に位置する。しかし実際には、社会的権力を持たない人物に政治的責任を押し付けるシステムと化していた。誰も背負いたがらないリスクと責任を、地域の保健衛生官に背負わせる。保健衛生官はそのためにいるようなものだ」