患者のいない病床をコロナ病床にして儲ける
それにしてもなぜ、病床があるのにコロナ患者が入院できない事態が起こっているのか。今回の事態の背景には、日本には救急医療制度が遅れている問題点があると指摘するのは、PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)(8月19日付)「『病床があるはずなのにコロナ患者が入院できない』政府が見落としている医療体制の問題点 税金をばらまくだけでは解決は遠い」という記事だ。
筆者は、高久玲音(たかく・れお)一橋大学経済学研究科准教授。専門は医療経済学で、東京都地域医療構想アドバイザーも務めている。こう分析している。
「(現在)医療現場での混乱も続いているが、第1波の頃とは明らかに異なる点がある。多くの病院の経営は順調なのだ。突然の流行で混乱を極めた第1波では、病院は軒並みかつてない減収を記録した。その後、コロナ対応のための補助金が整備され、黒字の病院が増えている。筆者がとりまとめた東京都の病院を対象とした経営状況調査でも、コロナ患者の受け入れが期待されている都内の急性期病院は2020年度全体で億単位の黒字だ。多くの通常医療がキャンセルされた中での黒字は、病院に対する補助金がいかに潤沢だったかを示している。
黒字のカギは政府が設けた空床確保料にある。コロナ患者を診るためには、他の患者と隔離するために多くの空床を事前に準備する必要がある。空床を確保するには通常の患者の診療を停止する必要があり、そうした機会損失を補填する補助金が設けられた」
この空床確保料の問題点を、高久氏はこう指摘する。
「空床確保料には問題も多く、たとえば、もともと稼働率の低い病院が、患者のいない病床をコロナ患者のための『空床』として申請して儲けているケースもある。多額の補助金は配られたが、残念ながら医療提供体制は改善されていない。典型的な例は、搬送困難事例の増加だ。まず『コロナ疑い』の患者の搬送が困難になっている。『もしもコロナだったら...』と考える病院は受け入れを断ることになる。
陽性が確定している患者の受け入れはいわゆる『重点医療機関』を中心に担われている。コロナ患者用の病床確保を行っている病院のことで、空床確保料をもらっていることもあり、基本的にコロナ患者の受け入れを断らないことが想定されているが、実際には『直前まで診ていた一般診療の患者のベッドをすぐに開けられない』等の理由で断るケースもある」