コロナ禍で、多くの企業が売り上げの減少など厳しい経営を強いられるなか、企業信用調査の東京商工リサーチが、負債比率や有利子負債比率など財務分析の数値に限定せず、「債務の過剰感」を企業に聞いたところ、「コロナ前から過剰感」と答えた企業は13.2%(9105社中1210社)、「コロナ後に過剰感」は19.6%(1788社)で、32.9%の企業が「過剰債務」であると回答した。
「過剰債務」と回答した企業の割合は、前回調査(2021年6月)の31.6%から1.3ポイント上昇し、2021年4月に調査を開始して以降で最悪となった。8月17日の発表。
「過剰債務」飲食店や宿泊業が上位に
企業の規模別でみると、「過剰債務」と答えたのは、大企業が16.7%(1373社中230社)に対して、中小企業(資本金1億円未満、個人企業など)は35.7%(7732社中2768社)で、20ポイント近く差が開いた。
「過剰債務」と回答した中小企業は前回調査(34.2%)から1.5ポイント悪化した。
また、「過剰感があったが、コロナ後に解消」は、大企業がわずか1.7%(24社)、中小企業も2.0%(156社)にとどまった。
「過剰債務」と答えた企業が多い業種は、飲食店で79.6%(64社中51社)。次いで、宿泊業の78.0%(50社中39社)、娯楽業の65.3%(52社中34社)と続く。新型コロナウイルスが直撃した対面型サービス業が上位を占めた。旅行や葬儀、結婚式場などの「その他の生活関連サービス業」は60.4%(48社中29社)だった=下表参照。
飲食店や宿泊業は、休業協力への協力金や「Go To トラベル」、「Go To イート」など複数の支援策が実施されたが、それでも「過剰債務率」が高かった。人流抑制や「3密」の回避が広がり、コロナ禍の影響が深刻なことを示している。
こうした業種は、サービスを在庫としてストックできず、消失した需要をコロナ収束後も取り戻すことが難しい。このため、過剰債務の解消の原資となる短期的な利益確保も難しい状況が想定され、業種ごとに寄り添ったきめ細やかな支援が必要になっている。
東京商工リサーチは、国や自治体、金融機関の資金繰り支援で倒産は抑制されているが、資金繰りが一時的に緩和しても、業績不振から抜け出せない企業が水面下で過剰債務に直面している実態を改めて浮き彫りにした、とみている。
過剰債務で30.0%の企業が「事業再構築の意向はない」
さらに、調査では「コロナ前から過剰感」、「コロナ後に過剰感」と答えた企業(2757社が回答)に、「債務(負債)の状況が、貴社の事業再構築への取り組みに影響を与えていますか」との問いに、30.0%(829社)の企業が「事業再構築の意向はない」と答えた。
一方、過剰債務が足かせで「取り組むことができない」と答えた企業は15.4%(425社)、「取り組み規模を縮小した」は18.9%(522社)だった。過剰債務を抱える企業のうち、34.3%が事業再構築にマイナスの影響を訴えている。
規模別でみると、過剰債務が事業再構築の足かせになっている企業の割合は、大企業で32.3%(201社中65社)、中小企業で34.5%(2,556社中882社)だった。
東京商工リサーチによると、政府のコロナ関連支援で、2021年1~7月の企業倒産(負債1000万円以上)は3520件と前年同期(4790件)を26.5%下回った。ただ、感染拡大に伴う度重なる緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の発令で、対面型サービスを展開する業種は苦境が続く。
現状、「実質無利子・無担保融資」などの貸付型支援、「新型コロナ特例リスケジュール」などのリスケ型支援で資金繰り破たんが回避されているが、業績回復が遅れた結果、水面下では返済猶予などの支援策が過剰債務を誘発する結果になっている。
足元では「過剰債務」を訴える企業が3社に1社あり、債務が事業再構築の足かせになっていると答えている。政府が描く事業再構築が理想倒れに終わる恐れもあり、成長戦略と同時に、過去の債務への抜本的な対応が必要な時期が迫っている、と指摘する。
なお調査は、8月2日~11日に実施。資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義。有効回答の9105社を集計・分析した。「過剰債務に関するアンケート」は今回が3回目。