菅首相の行動パターンは「中小企業の経営者」
「第3章 菅政治とは何か」で、いよいよ菅政権の評価に移る。御厨さんは「思想とイデオロギーよりも、ウルトラリアリズム」の人、行動パターンは「中小企業の経営者」と厳しい。芹川さんも「国家は中小企業ではありません」と受け、菅首相のリーダーとしての資質を御厨さんに尋ねている。「国家があって、それにどう政治家が貢献していくのかという発想は、残念ながら彼はおそらく一度も勉強してこなかった」と言い、小選挙区制の弊害があると見ている。
芹川さんは菅内閣を「コロナ連動政権」と呼んでいる。コロナの患者数が減ってくると支持率の低下が止まるからだ。支持率と感染者数が逆相関にある。「ワクチンでホップ、オリンピックでステップ、解散総選挙でジャンプというものですが、その前にズドンという感じもなくはないですね」と言い、御厨さんも「その前にズドンの可能性も高いわけです」と応じている。しかし、菅さんのあとがない状態だから支えられていると見ている。
菅内閣の政策についても二人の評価は厳しい。携帯電話料金の値下げ、不妊治療の保険適用、デジタル庁創設とか、「小さな政治」ばかりだ、と芹川さんが指摘すると、「地方政治のレベルであればいいと思うのだけれど、国でやってどうするのかな」と御厨さん。
「成果なら、まずコロナ対策で見せてくれ」と国民が思っているのに、それが言えなかった。菅さんの頭のなかにはコロナよりも『Go To トラベル』があったわけです。これが国民に喜ばれるはずだ、なぜならば経済が大事だから......これに固執しすぎました」
菅内閣についての記述を中心に紹介したが、本書では明治、戦前、戦後の政治の流れを随所で押さえている。そのうえで、コロナで日本政治の弱点が見えてきた、と芹川さんがまとめている。
危機への対応力の弱さ、厚労省を動かせなかった官邸、整理されていない国と地方の関係、議論のない国会、劣化した野党と政党政治、国民に訓令して説得できる言葉を持たない貧困な政治家......。
最後の御厨さんの言葉に、政治学者の知恵を感じた。
「日本をそんなに悪い国だと思う必要はありません。だらしない国だとは思うけれど、最低のところにはいません。ちょっとは頑張っている。さらにもうちょっと頑張りましょう、という程度で私はいいのではないかと思います。あまり大きなことを考えるとまた別の強制力が働いて、いいことなんかありませんから」
長年、日本の政治史を研究し、保守政治を見続けてきた人ならではの含蓄ある言葉だと思った。(渡辺淳悦)
「日本政治 コロナ敗戦の研究」
御厨貴・芹川洋一著
日本経済新聞出版
1760円(税込)