日本の労働環境は、どれぐらい整っているのか――。
厚生労働省は2021年の「労働安全衛生調査」の結果を、7月21日に発表した。時間外労働や休日労働時間は、前回調査の18年よりも減少しているものの、それでも80時間を超える時間外・休日労働を行っている労働者がいる事業所が2.5%もあった。
この調査は事業所が行っている安全衛生管理、労働災害防止活動及びそこで働く労働者の仕事や職業生活の実態を把握し、今後の労働安全衛生行政を推進するための基礎資料とすることを目的としている。事業所8009か所、個人8917人から 有効回答を得た。
長時間労働者の健康管理、面接指導は稀なこと
長時間労働者に対する調査によると、1か月間の時間外・休日労働時間数が45時間超80時間以下の労働者がいた事業所の割合は16.3%と前回の18年調査時の25.0%からは減少した。
また、80時間超の労働者がいた事業所の割合は2.5%と同7.0%から減少してはいるものの、引き続き、80時間以上もの長時間労働が行われている実態が明らかになった。
これらの長時間労働者がいた事業所のうち、1か月間の時間外・休日労働時間数が45時間超80時間以下の労働者がいた事業所で、面接指導の申し出があった割合は2.4%だった。このうち医師による面接指導を実施した割合は78.9%、しなかった割合は12.2%だった。
80時間を超える時間外・休日労働を行っている労働者がいる事業所で、面接指導の申し出があった割合は12.1%で、このうち医師による面接指導を実施した割合は95.4%、しなかった割合は0.7%だった=表1参照。
長時間労働者に対する健康を管理する点で、面接指導は重要だが実施しているケースは非常に稀でしかない。これでは長時間労働者に対して、適切な健康管理が行われているとは言えない。
また、60 歳以上の高年齢労働者が従事している事業所の割合は74.6%と非常に高いが、このうち高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所の割合は81.4%だった。概ね取り組みが実施されている=表2参照。
ただ、対策の内容を見ると、「本人の身体機能、体力等に応じ、従事する業務、就業場所等を変更」が45.7%、「作業前に体調不良等の異常がないかを確認」は38.7%、「健康診断の結果を踏まえて就業上の措置を行っている」が34.8%と、どちらかというと比較的、定性的な対策が高い割合となっている。
半面、「定期的に体力測定を実施し、本人自身の転倒、墜落・転落等の労働災害リスクを判定し、加齢に伴う身体的変化を本人に認識させている」企業は3.8%、「医師等による面接指導等の健康管理を重点的に行っている」は7.4%と低く、形式的なチェックは中心で、高齢者の健康状態に対するチェックは進んでいない状況が浮き彫りになっている。
外国人労働者の健康管理や労災対応に遅れ
さらに、外国人労働者が従事している事業所の割合は14.4%で、このうち外国人労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所の割合は89.8%となっている。労災防止策への取り組みは、比較的実施されていると言えそうだ=表3参照。
ただ、対策の内容を見ると、「定期的に必要な健康診断を受診させている」企業は62.3%、「外国人労働者にわかる言語で説明するなど、作業手順を理解させている」との回答は49.8%と高い。
しかし、健康診断の受診は労働者としての当然の権利であり、これは労災防止策と言えるのだろうか。また、外国人労働者に対して、作業手順が理解できるように説明を行うのは、仕事上では当然だろう。 しかし、「産業医や衛生管理者等を活用して、健康指導及び健康相談を行うようにしている」と答えた企業は15.7%、「災害防止に関する標識、掲示、表示灯について、図解や母国語を用いて理解できるようにしている」企業は19.2%と低い。
つまり、外国人労働者が業務上で必要な点については対応しているものの、健康管理や労災防止についての対応は遅れている。
これらの調査結果から見て、少なくとも日本の事業所が安全衛生管理、労働災害防止が十分に実施されているとは言い難い。(鷲尾香一)