幻に終わった2つの巨大な「野戦病院」構想
日本財団の「野戦病院」施設とは、2020年7月、東京都品川区(お台場)の「船の科学館」駐車場横に作られた「日本財団災害危機サポートセンター」のことだ。震災時の避難所(計140室のワンルーム)としても活用できるほか、新型コロナウイルスの療養施設として、巨大体育館に段ボールの壁で仕切られた100床の臨時医療機関も作った=写真参照。
しかし、新型コロナ対策としては一度も使われることがないまま壊されて、今年4月からパラリンピック代表選手たちの練習施設に代わってしまった。
このように、日の目を見なかった大きな「野戦病院」がほかにもある。千葉市の幕張メッセで計画されていた1000床もある臨時病院だ。
産経新聞(8月18日付)のコラム「正論:新型コロナ対応、全体戦略持て」の中で、日本医科大学の松本尚・特任教授(救急医学)が、「野戦病院」を作ろうとした経緯を、こう書いている。
「昨年4~6月にかけて千葉県では幕張メッセに最大1000床の臨時病院を設置する計画を進めた。医師や看護師はどうするかの批判もあったが、筆者は県内の医療機関から薄く広く集めることで、医療機関側の負担を軽減し、通常医療への影響を最小限にできると考えている。
第1波の収束によってこの計画が実施されることはなかったが、『臨時医療施設に関する検討報告書』がまとめられた。第5波が明らかになる前の数理モデルによる推測では、東京都の感染者が1日1万人を超えるとされていた。せっかくの計画をお蔵入りにしたこと、準備期間を台無しにしたこと、対応策を導き出すことの数理モデルを生かせなかったことは、想像力の欠如に起因する危機管理意識の甘さの問題である」
そして、松本教授は行き当たりばったりの菅政権の対応をこう批判している。
「臨機応変に、刻々と変化する状況に合わせつつ非常時には非常時の対応を学ばなければならない」
それにしても、なぜ福井県でできることが、政府や東京都にできないのか――。東京では特に、東京五輪で使われた選手村の膨大な住居や施設が残っているのだから、「野戦病院」に活用すべきではないかという議論がある。
実際、8月17日に緊急事態宣言の拡大を決めた際の、菅義偉首相の記者会見で「選手村を野戦病院に使う考えはないのか」と質問が出た。菅首相は、
「(選手村の)分譲マンションのうち相当数は販売済みだと聞いている。今後の活用法は東京都や所有者である民間事業者の間で決められると聞いている」
として、東京都に下駄を預けた形で、「野戦病院」そのものを作ろうという熱意がないことを示した。