新型コロナウイルスの感染防止から巣ごもりやテレワークが広がるなか、マンション住民にさまざまな問題が持ち上がり、苦情も急増しているという。家で過ごす時間が長くなった人が多くなり、騒音が増えているほか、これまで気づかなかった匂いなどが気になることが要因だ。
世相を映した形の「巣ごもり騒音」が新たな社会問題として浮上している。
ちょっとした生活音にも不満... そんな人が増えた
「昨年から急激に多くなったのが住民同士の騒音などの苦情です。子どもやペットの声だけでなく、掃除機や洗濯機など、ちょっとした生活音に不満を持つ人も増えています」
そう話すのは、東京都内の不動産業界関係者だ。
コロナ禍で、会社や学校には行かず、自宅にとどまって仕事や勉強に取り組むようになった人は多い。感染防止には欠かせない新しい生活様式が始まったわけだが、人がいれば「音」も増える。足音や声をはじめ、吸引力の向上で大きくなった掃除機の吸引音、さらに洗濯機をまわすモーター音などにストレスを感じる人が急速に増え、管理組合や管理会社などを悩ませているという。
単なる苦情で済むならいいが、騒音を巡っては深刻なトラブルに発展するケースも実際に出ている。在宅勤務とは関係ないが、東京都足立区では2020年5月、アパートに住む男が「物音がうるさい」と隣人の部屋に押しかけ、そこにいた家族を刃物で切りつけ殺傷する事件も起きたのは記憶に新しい。
コロナ禍前は平日昼間にはほとんど家にいなかった若者や夫婦二人世帯などが在宅生活を送るようになったことで住環境の悪さに初めて気づくケースもあるという。都心近辺に住む一人暮らしのある女性は「家でテレワークをしていたら、ベランダの窓からひっきりなしにたばこの煙が入ってきて、管理会社に文句を言うしかなかった」と話す。コロナ禍がなければ不満を言わずに済んだかもしれない。
2020年度の相談件数、前年度比35%増
家具なども、在宅時間が長くなれば、気になることも出てくる。特に椅子。ある都内のビジネスマンは在宅が多くなり、数万円の輸入物のオフィス用のいすを購入した。「長時間座ることになり、腰が痛くなり始めたので、ちょっと奮発しました」と語る。
ちょっと座るくらいでは、自分の椅子の座り心地の悪さに気づかなかったわけだ。これは、生活環境の改善に結びついたという意味ではプラスの効果かもしれないが、会社が費用を出してくれるわけではなく、懐には痛い。
マンションの管理組合などに助言をしたり、苦情の調査を行ったりしている「マンション管理業協会」(東京都港区)が6月末に発表した調査結果によれば、2020年度の相談件数は7703件にのぼり、前年度(5707件)から35.0%増と大幅に増加した。コロナ禍の影響が大きいとみており、マンションを巡る苦情や不満は今後も増え続ける可能性は少なくない。
不動産業界関係者は「マンションでは住民同士が親密に付き合うことが少ないケースが目立つ。互いに普段から親しければ大目に見ることができても、知らない人の行動には小さなことでも我慢できなくなるのだろう」と話す。
コロナ禍のなか、周囲の人を気遣い、騒音などに配慮することは欠かせないが、住民同士が互いに付き合いを深めるような取り組みも今後、重要になってくるだろう。(ジャーナリスト 済田経夫)