「マタハラ」リスクについて、前編のCASE「やるか辞めるか、はっきりさせないと...」をもとに、上司の部下に対する対応のあり方を考えてみましょう。
ポイントは、上司が部下の思いを正しく捉え、価値観を知ること。そのうえで、ハラスメント予防のあり方を定め、日常的に予防することです。
部下の思いを正しく捉える(価値観を知る)
◆上司と部下との会話
参考リンク:「頼りにしていた女性部下が妊娠。マタハラにならない仕事の任せ方はどうする?〈前編〉」J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年8月18日付
CASEの例では、上司はまずCさんの状況や考えをじっくり聴くことが先決です。Cさんの「頑張りたい」との発言は、妊娠・出産・子育てを経る中でも、できるだけ仕事を続け、自らの成長を維持したい意思表示と考えられます。
上司は妊娠・出産などに臨む部下と、決して仕事との二者択一ではなく、両立を前提として対話を進めることが大事です。責任意識が強い部下ほど一身上の都合だと遠慮し、希望や意見を控えがちなことに注意しましょう。
一方で、時差通勤、時間短縮や在宅勤務、産前産後休暇や育児休業などを円滑に活用し、安心して出産・子育てに備えたいとの本人の願いは切実です。しかしこの希望も、職場の環境や風土によっては申し出を躊躇せざるを得ない状況に追い込まれます。
上司との関係もさることながら、日頃の業務分担や仕事の進め方、同僚との人間関係にも大きく左右されるのです。このCASEのように周囲から「無責任で迷惑」「自己都合で休むのか」などの言葉が上がるようでは、安心して気持ちを打ち明けることもできません。
ハラスメント予防の心構え(あり方を定める)
(1)マタニティ・キャリアは貴重な経験と心得る そこで、上司は自らマタハラに通じる固定観念の払拭に努めることはもちろん、もう一歩踏み込み、出産・子育てと仕事との両立を社員のキャリア形成に及ぼす所与の条件ととらえ、両立を支援することです。
出産・子育ては、親となることで成熟を促し、仕事との両立経験はダイバーシティ・コミュニケーションの力を養い、顧客や同僚・取引先など多様な人を理解する土台になります。すなわちマタニティ・キャリアは、貴重な経験なのです。
現在のコロナ禍は、期せずして「働き方改革」を推し進める力となりました。企業が否応なく在宅勤務を進めるなかで、労働時間で社員を管理することの限界が浮き彫りになっています。そして、長時間労働の見直し、業務の可視化、在宅勤務でモチベーションと成果を上げられる仕組みづくりなどが求められています。
これらは正に、出産・子育てと仕事との両立推進のテーマと重なります。マタハラ予防は働き方改革の試金石とも言えるでしょう
日常的な予防を図る(やり方を変える)
(1)マタニティ社員の周辺をケアする 上司は、出産・子育てに関わる社員の状態に気を配り、適宜適切な支援を行うべきことは言うまでもありませんが、加えて周辺の身近な同僚への配慮も重要です。本人の仕事のフォローや引き継ぎなど、同僚の協力は不可欠ですが、それを上司が当然のごとく指示してはいけません。
本人の状況をメンバーに丁寧に伝え、共感の気持ちを引き出しながら協力を依頼します。また、協力には謝意を表し、協力者の仕事の調整を行います。さらに、本人にも周囲の協力への感謝を表すように促すとよいでしょう。困ったときはお互い様です。
こうした上司の働きかけが、出産・子育てのみならず、それぞれの部下が抱える事情と仕事の両立を互いに思いやれる風土づくりにもつながるのです。
一方で、上司は、出産・子育て期の社員の強みや持ち味に応じた、チームに貢献できる仕事を整理し直し、制約を自らの創意工夫でも乗り越えられるよう支援することも必要です。業務整理が得意なら業務標準化やマニュアル作成を、情報処理に堪能なら業務のバックアップ情報収集とシェアなど、よりステップアップした役割を共に考えます。
また、後輩社員との相談業務など、昨今ではチャット、オンラインミーティングなど在宅でも十分可能になってきていますから、検討してもよいでしょう。また妊娠中は部下本人の自助努力だけではいかんともしがたい体調変化も起こりますので、こまめに状況を聴きながら臨機応変に対応することも大切です。(前川孝雄)
※ 職場のハラスメント予防についてさらに詳しく学びたい方、また職場での研修導入を検討される方は、弊社FeelWorksが開発した「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」をご参照ください。