整腸剤「正露丸」で知られる大幸薬品(大阪市西区)の株価が、連休明け2021年8月10日の東京株式市場で一時、前営業日終値から135円(13.4%)安の871円まで下げた。下落は止まらず、17日の終値は前日比27円(2.96%)安の885円だった。
前週末6日、2021年6月中間連結決算と同時に発表した2021年12月期通期の業績予想が、最終赤字に転落するとの内容で、投資家にとってネガティブサプライズになった。
「クレベリン」増産が裏目 天国から地獄!?
大幸薬品の経営の柱は、医薬品事業を大きく上回る感染管理事業だ。コロナ禍が続くが、その主力の空間除菌剤「クレベリン」が想定したほど売れず、在庫の評価損を計上する事態となった。同社とすれば、コロナ禍で欠品を招いた反省から増産したことが裏目に出た格好だ。
それでは、2021年12月期業績予想の下方修正の内容を確認しておこう。売上高は従来予想の220億円から95億円減額して125億円(前期実績比28.9%減)、営業損益は従来予想45億円の黒字が20億円の赤字(前期は56億円の黒字)、最終損益は従来予想31億円の黒字が28億円の赤字(前期は38億円の黒字)へ変更した。
ちなみに、前期は決算期変更に伴い「4~12月期」の変則決算で実質9か月分だったが、クレベリンが売れまくったことで売上高、利益とも過去最高を記録した。変則決算で比較しにくいことは脇に置くとして、20年9月中間連結決算は、クレベリン関連製品の売り上げが前年同期比5.1倍の86億円に急伸していた。まさに、天国から地獄とはこのことか。
「黒字予想が一転赤字」という発表は売りを集めやすいが、これに加えて同時に配当についても従来予想の年間20円をゼロへと、無配転落に修正したことが株価下落に拍車をかけた。
大幸薬品は「下方修正、赤字、無配を真摯に受け止める」として柴田高社長以下3人の役員報酬を3か月間、10~30%削減することも発表した。
感染管理、在庫の消化進まず
こうした事態を招いたのは、感染管理商品の想定外の販売不振だった。大幸薬品は代名詞とも言うべき「正露丸」、その他大衆薬品については訪日外国人が「蒸発」した影響で販売が落ち込んだが、クレベリンやその関連製品の売り上げの伸びでカバーしていた。
特にコロナ禍初期は欠品が常態化したこともあり、大阪府茨木市に新工場を設けて増産。生産能力を最大10倍に増やすことも計画していた。
しかし、「コロナ流行の長期化による不安度の鈍化やワクチン接種効果への期待」(大幸薬品)などから他社商品を含めて市場在庫の消化が進まず、特に下半期(7~12月)には販売計画が予想を大幅に下回る見通しになった。 在庫調整のため茨木の新工場を含めて感染管理事業は生産停止しており、通期で11億円の操業停止関連費用も計上。在庫の評価損は17億円にのぼる。
大幸薬品はコロナ禍で売り上げを伸ばす企業として株価が上昇し、2020年8月に2928年の高値をつけたが、これをピークに下落を続け、今やコロナ前の2019年後半の水準に戻った。赤字を乗りこえて経営をどう立て直すか、世に広く知られる「正露丸」を擁する老舗企業の次の一手に注目が集まる。
(ジャーナリスト 済田経夫)