パワハラやセクハラなどハラスメント防止の法整備が進んでいますが、企業では貴重な人材の採用・定着・育成のためにこそ、ハラスメントが起きにくい組織風土づくりが求められます。
多くの上司層は悪気がないにも関わらずハラスメント・リスクを冒しがちです。またハラスメント・リスクを恐れて部下とのコミュニケーションが希薄になる職場も増えつつあります。こうした背景を踏まえて、本連載では管理職や経営者など上司層に向けてハラスメントを予防する上司力について解説します。
「ハラスメントが起きにくい職場を創る」シリーズの第11回と12回では、マタハラリスクが伴いがちな上司の部下への対応CASEから考えましょう。
「マタハラ=マタニティ・ハラスメント」は、妊娠・出産への嫌がらせをいいます。
CASE 「やるか辞めるか、はっきりさせないと...」
【A課長】君のチームのCさんが妊娠したそうだね。そこで、今後の対応を相談しておきたいんだが。
【B係長】はあ... 相談も何も、これからちょうど超多忙な時期ですよ。本人も承知のうえで引き受けた仕事なので、この際最後まで精一杯やり切ってもらおうと思っていますが......。
【A課長】いや、こうなれば女性は出産・子育てに専念だろう。まず担当からは外れてもらったほうがいいのではないか。
【B係長】えっ! それでは仕事が回らないですよ! それにCさん本人もまだ頑張りたいと言ってますから。
【A課長】しかし、女性は出産・子育てを優先すべきだ。今後は、仕事はもうそこそこでいいだろう。
【B係長】でも、周囲の社員からは、無責任で迷惑、自己都合で休めていいなど、不満の声も出ていますよ。
【A課長】とにかく体調も不安定になるし、時間短縮や休業も続くだろう。重たい仕事は任せられないよ。
【B係長】困ったものですね~。やるか辞めるか、はっきりさせないといけないですよね?。
【解説】
部下のCさんが妊娠を申し出てきたことから、直属上司のB係長と、その上司のA課長が相談を始めた場面です。ちょうど仕事が多忙な時期と重なり、B係長はCさんに目いっぱい頑張ってもらおうとの考えです。
これに対しA課長は、Cさんの担当を外すなど、とにかく仕事の軽減を主張しています。そこで、B係長が思わず呟いたのは「やるか辞めるか、はっきりさせたい」ですが......。
◆ ハラスメント・リスク
今回取り上げるハラスメントは、「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」のリスクです。マタハラは、妊娠や出産、育児休業などを申請・取得した労働者に対して職場の上司や同僚が、嫌がらせや制度利用の阻害や、解雇などの不利益を及ぼすものです。
このうち、制度の利用拒否や降格、解雇などはハラスメントとして明らかですが、何気ない言葉や態度で相手を傷つけ就業意欲を削ぐタイプのものは、むしろ厄介と言えます。
CASEは、直接本人への語りかけではありませんが、会話の内容はハラスメント・リスクの要素満載です。
その点にも触れながら、課題を整理していきましょう。