新型コロナウイルスの感染拡大は国民の健康だけではなく、経済活動や生活環境などのさまざまな場面で大きな影響を与えている。
そして、DV(家庭内暴力)や性暴力・性犯罪もまた、コロナ禍の影響で増加している。
DV相談件数の増加、緊急事態宣言の発出と符号
内閣府が公表した「女性に対する暴力の現状と課題」によると、2020年度(2020年4月~2021年3月)の配偶者暴力相談支援センターなどへのDV相談件数は、19万30件と19年度の11万7420件から61.8%も増加した。
DV相談件数の月別推移を見ると、2020年4月から相談件数が急増しているのは明らかだ。この時期は、新型コロナウイルスの感染拡大により、政府が緊急事態宣言を出した時期と符合する=グラフ1参照。
在宅勤務、テレワークの推進などで生活環境が変化したことや、コロナ禍による経済面への影響がDV増加の要因になっている可能性がある。
2591人への調査によると、DV被害の経験者が「何度もあった」「1、2度あった」を合わせると22.5%と、約4人に1人は配偶者から暴力を受けたことがあった。
DVの種類別では、殴る、蹴るなどの「身体的暴行」は14.7%(「何度もあった」「1、2度あった」の合計、以下同じ)、人格を否定するような暴言や行動監視、長期間の無視など精神的な嫌がらせ、恐怖を感じるような脅迫といった「心理的攻撃」は12.5%、生活費を渡さない、給与や貯金を勝手に使う、外で働くことへの妨害など「経済的圧迫」は5.9%、「性的強要」は5.2%となっている=表1参照。
男女別にみると、女性1400人のうちDV被害の経験は25.9%、男性1191人のうち経験者は18.4%となっており、女性の約4人に1人は被害経験があり、約10人に1人は何度も被害にあっている。
DVの種類別では、女性の場合には身体的暴行が17.0%、心理的攻撃が14.6%、経済的圧迫が8.6%、性的強要が8.5%、男性の場合には身体的暴行が12.1%、心理的攻撃が10.1%、経済的圧迫が2.8%、性的強要が1.3%となっている。
こうした配偶者からのDVに対して、「命の危険を感じた」との回答が3.0%(女性4.8%、男性0.9%)あり、女性のおおよそ20人に1人が命の危険を感じたことになる。
DVは配偶者だけではなく、子どもにも向けられる。子どもへのDV被害は、女性337人のうち30.0%、男性188人のうち20.3%から被害を受けた回答があった。
DVでも「子どもがいるから離れられない」
DVの種類別では、「心理的虐待」が最も多く、女性の22.0%、男性の11.7%にのぼった。次いで「身体的暴行」が女性の16.3%、男性の10.6%、「ネグレクト(育児放棄)」が女性の1.5%、男性の0.5%、性的虐待が女性の0.6%、男性の0.5%から回答があった。
こうした配偶者からのDVに対して、「相談したか」訊ねたところ、女性の41.6%、男性の57.1%が「誰にも相談していない」と回答した。その理由として、「相談するほどのことではないと思った」が女性の45.7%、男性の50.4%を占めた。
配偶者からDVを受けたことで、「相手と別れたか」と質問したところ、582人中15%が別れた (女性は363人中16.3%、男性は219人中14.2%)と回答した。配偶者からのDV被害に対しても、80%以上が相手との関係を継続している。
別れなかった理由では、「子どもがいるから、子どものことを考えたから」が女性160人中71.3%、男性52人中61.5%を占めた。次いで、「経済的な不安があった」が女性の52.5%、男性5.8%となった。
配偶者によるDVと同様に増加しているのが、性暴力・性犯罪だ。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの全国の相談件数の推移によると、2020年度の相談件数は5万1141件と19年度の4万1510件から23.2%も増加している=グラフ2参照。
DVと同様に性暴力・性犯罪の相談件数は2020年6月から急増しており、コロナ禍による環境の変化が一因となっていることが疑われる。
性暴力・性犯罪の被害では、女性1803人中、「無理やりに性交等をされた被害経験」が6.9%となっている。このうち、1人からは5.3%、2人以上が1.6%で、女性の約14人に1人は無理やりに性交被害に遭った経験がある。
加害者との関係(複数回答)では、女性125人では、交際相手・元交際相手が31.2%、配偶者が17.6%、元配偶者が12.9%、職場・アルバイト先の関係者が8.0%、まったく知らない人が11.2%となっている。
また、無理やりに性交等をされた被害の相談では、58.4%が「相談しなかった」と回答している。(鷲尾香一)