東京オリンピックの閉幕とともに、新型コロナウイルスの感染拡大がまたクローズアップされてきた。国内の新規感染者は連日1万人を超え、軽症者や一部の中等症の人は、入院できず、自宅療養を余儀なくされている。
あらためて新型コロナウイルスがもたらした影響や対策について、関連本とともに考えてみたい。
帯の「パーティションは逆効果、手洗いよりうがい、換気を徹底する」という文言が気になり、手にしたのが本書「もうだまされない 新型コロナの大誤解」である。
読んでみると、新型コロナウイルスの感染対策として続けてきたことに、多くの誤りがあり、専門家と称する人がいかにいい加減であるかがわかった。より強力なデルタ株の流行に備えて、正しく対処したいものだ。
「もうだまされない 新型コロナの大誤解」(西村秀一著)幻冬舎
テーブルなどのアルコール消毒は無意味
著者の西村秀一さんは、国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長。専門は呼吸器系ウイルス感染症。2020年2月、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号には臨時検疫官として乗船した。
当初、船の中での流行拡大を、「ウイルスで汚染された環境表面に手指がふれたことによる、接触による集団感染」という説明が、まことしやかにされた。しかし、プリンセス号では省エネのため完全換気はせずに複数の客室の空気(排気)を1か所に集め、3割ほどの新鮮な空気を加えただけで、温度を調節して再び各部屋へと循環させる方式だった。
ウイルスを含んだエアロゾルが空気の流れに乗って移動しなければ、こうした感染は起こり得ず、明らかに「空気感染」だったという。
新型コロナウイルスの主な感染様式が空気感染であることは、すでに世界の専門家の間では、コンセンサスを得た事実なのだ。
ウイルスは皮膚からは感染しないので、テーブルやいす、ドアノブのアルコール消毒は無意味だと書いている。なんて多くの誤った対策のために、無駄なエネルギーを費やしてきたのか、とため息が出た。
コンビニのレジに設置したビニールカーテンもかえって危険だと指摘している。目の前の飛沫はある程度、防ぐことができるが、空中を漂うエアロゾルがすき間から入ると、長時間さらされることになり、ウイルスを吸い込む結果になるのだ。
「閉鎖された場所では、パーティション(隔壁)などはむしろないほうが安全です。空気が流れていくほうが、はるかに良いのです」
飲食店のテーブルに置かれたパーティションも意味がないという。真に有効な対策は、換気をしっかりすることに尽きるというのだ。
冬に重症患者が増えるのは、湿度が低く小さなエアロゾルが空中を漂い続けるうえに、暖房のために閉め切るので換気が悪くなるからだ。夏の時期に多くが軽症だからと言って油断できず、次に来る秋冬は、流行の規模も重症者も大きくなるのが普通だとしている。
空気感染を理解できれば、対処の基本は長時間の「3密」回避とユニバーサルマスキングであることがわかるだろう。「換気の悪い密閉空間」「多数が集まる密集場所」「間近で会話や発声をする密接場面」。このうち1つでも危険だと警鐘している。空気感染では、それぞれが感染を高確率で起こす要素なのだ。