ただ稼げばよい時代は終わった!? 資本効率性で選ぶ「ファンケル」を買う(慶応義塾大学 八田潤一郎さん)【企業分析バトル】

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「ROEの量より質」問われる日本企業の姿勢

   一般にROE=当期純利益÷株主資本や前出のデュポン分解のようにROE=売上高利益率×資産回転率×財務レバレッジで表せるが、問題も多々あるのは計算式をみても一目瞭然だ。当期純利益を上げるか、株主資本を下げるかという選択肢があるが、デュポン分解で日本のROE の低さが売上高利益率の低さに起因していることを鑑みても、純利益の増加は短期間では難しい。不透明なM&Aや設備投資よりも、増配や自社株買いをし、株主資本を下げる努力をしたほうが賢明という判断には一理ある。ただ、積極的な株主還元するのは良いが、負債を増やしても財務レバレッジは簡単に上がるので、結局ROEの数字(量)よりもROEの質が大切なのは言うまでもない。そもそもROEの国際比較も問題があろう。経営における姿勢・重視するポイントは国ごとに異なるし、単純に会計基準の影響もある。業界間比較も難しいうえに、長期にわたるROEの向上には限界がある。

   コロナ渦では手厚い財務体質に重点を置くべきという声も聞こえるが、金融緩和の流れにのり積極的に負債を活用すべきという声もあろう。

   一方、現実として「ROE、アップルは70% 歯磨き粉のコルゲート、600% 米、コロナ下も積極還元」(日本経済新聞 2021年6月4日付))という報道のように、海外有名企業のROEは非常に高い。

   アップルのような成長テック企業だけではなく、口腔衛生用品ブランドでおなじみの老舗一般消費財メーカー、コルゲートまでもが安定的なフリーキャッシュフローを武器に大胆な株主還元を進め、高ROEを保つ。成長が見込めないのならば、すべて還元という姿勢には驚くが、合理的だ。

   さて、日本企業のROEの底上げを図る意義は前出の伊藤レポートにおけるメッセージのとおりであり、残余利益モデルによっても支持・正当化される。

   企業の理想は負債も併せて活用しながら、成長分野に投資、その利益を株主に還元する循環を持続させることだ。しかし、現実には成長投資と還元の両方に消極的で、ひたすら内部留保を積み増す企業もある。

   株主資本コスト以上のROE、WACC(加重平均資本コスト)以上のROIC(投下資本利益率)を追求する姿勢を示さなければ、投資家は失望する。今般、政策保有株式の縮小に伴い、安定株主が減少するなか、議決権行使助言会社や日本版スチュワードシップ・コードの影響による議決権行使基準の厳格化、さらには活発に活動するアクティビストと株主の視線は厳しくなっている。

   企業が資本を活用し、「成長戦略をとるのか」、それとも「還元の姿勢を示すのか」を明示することは当然の責務として問われている。

   こうしたことから、今回は「資本効率性」と「その戦略について明示している」視点で銘柄を選びたい。注目したのは、化粧品やサプリメントなどの健康食品の製造・販売で知られる「ファンケル」 (4921)である。

資本政策・株主還元(出典:ファンケルグループ決算説明会2021年5月10日 資料より)
資本政策・株主還元(出典:ファンケルグループ決算説明会2021年5月10日 資料より)

   <ポイント>
●ROEの長期的向上と安定(2015年度0.7%→17年8.5%→20年11.7%→?)
●ROICのKPI導入し、投資効率を一段と意識
●DOE(純資産配当率)も併せて導入し、安定的配当
●機動的自己株式取得
●将来のキャッシュフロー配分を明示
●わかりやすい7つのチャレンジ

   足元ではコロナ禍による外出減、インバウンド需要が蒸発しており、厳しい化粧品業界だが、そのなかでファンケルは「数値目標は必達。インバウンド需要は織り込まない」という覚悟のもと、外部環境に合わせた積極的投資と株主還元を掲げている。

   したがって、第1四半期決算後の8月5日始値3335円で100株購入した。

   ファンケル(4921)
年初来高値(2021年2月16日)    4165円
年初来安値(2021年5月11日)     3235円
株式取得時の株価(2021年8月5日)  3335円
取得株数                100株

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