2021年8月13日、新型コロナウイルスの全国の新規感染者が2万人を突破した。もう誰も暴れ回るデルタ株を制御することができなくなった。
唯一の救いはワクチンだが、接種が進んだイスラエル、米国、英国、ドイツ、フランスなどでは「3回目の接種」がはじまりつつあるという。
本当に3回も必要なのか。製薬会社の「思惑がらみ」ではないのか。コロナ対策の専門家でも意見が真っ二つに分かれている。
米国は「3回目のワクチン接種」に舵を切る
3度目のワクチン接種は必要なのか――。米と英の両国政府の新型コロナウイルス対策の「大御所」の意見が割れている。ワクチンは時間がたつと効力が落ちるといわれ、3度目のワクチン接種は、ロケットの推進力を意味する「ブースター」接種と呼ばれる。
まず、米国はバイデン政権の新型コロナ対策の責任者である国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長が、2021年8月12日に「ブースター接種は必要」という考えを表明した。
CNNニュース(8月12日付)「Fauci:I believe FDA will approve vaccines 'very soon'」(ファウチ所長はFDA=米国食品医薬品局が「すぐに」3回目のワクチン接種を承認すると信じる)が、こう報じた。
「ファウチ所長は、デルタ株の感染拡大を受け、ワクチンの3回目の追加接種が米国民全員に必要になるとの認識を示した。ファウチ氏はこれまで『免疫が低い人以外は追加接種の必要はない』としてきたが、8月12日の記者会見では『日に日に評価が変わる』と考え方を変えた。FDAは、持病などにより免疫が低い人への追加接種の承認に向け、ファイザーやモデルナとの協議を続けており、13日にも認められる見通しになっている」
ファウチ所長は、これまで新型コロナ対策は2回のワクチン接種で十分だとして、人口の半分いるとみられるワクチンを接種しない人たちに接種を勧める対策に力を入れるべきだとしていた。
しかし、デルタ株が急激に広がっていること加えて、ワクチン接種を2回接種した人もデルタ株に感染するケース(ブレークスルー感染)があることに衝撃を受け、3回目の接種推進に舵を切ったのだった。
英国では3回目のワクチン接種が無意味であると説明
一方、英アストラゼネカ社とワクチンを共同開発した英オックスフォード大学の研究グループ責任者がアンドリュー・ポラード教授だ。
ポラード教授は、
「ブースター接種は必要ない。そんな余裕があるなら、ワクチンを発展途上国に寄付すべきだ」
と主張したのだった。
なぜ、ポラード教授が米のファウチ氏と真逆のことを言ったのか。ロイター通信(8月11日付)「Oxford researcher urges Britain to donate vaccines rather than give boosters」(オックスフォード大の研究者は、ブースター接種を勧めるくらいなら、ワクチンを寄付するよう英国に要請する)が、こう報じる。
「オックスフォード大のワクチン開発責任者、ポラード教授は、デルタ株の感染拡大によって『ワクチン接種が進んでも集団免疫の獲得は不可能になった』との認識を示した。ポラード教授は下院議員たちへのコロナ対策のブリーフィングの席上で、3回目のワクチン接種が無意味であること説明したのだった」
その理由としてポラード教授は、英国ではすでに成人の75%が2回のワクチン接種を終えているのに、デルタ株の感染が爆発的に広がっている現状を指摘した。ワクチン接種を終えた人のあいだでも、デルタ株に感染する人が増えている。こうした状況では、ワクチン接種を前提とした集団免疫の獲得は「不可能だ」とポラード教授は言うのだった。つまり、デルタ株の感染拡大を防ぐのは無理である。ロイター通信は、こう続ける。
「ポラード教授は、そのうえで『死亡や入院を防ぐ方法を考えることが重要で、そちらに焦点を当てるべきだ』とした。『ブースター接種を考えるのは、接種を完了した人たちの間で入院患者や死者が増えてきた時だが、幸い、現在それは起きていない。ワクチンの2回接種で、重症者や死者が抑えられており、現時点でパニックになる必要はなく、ブースター接種はやめるべきだ』と強調した」
また、ポラード教授は、ヒトの免疫システムは何十年もワクチン接種を記憶するため、今後、免疫が弱まっても完全に消えることはないと説明。今後は、重症化する人たちへの治療の進歩に焦点を絞るべきと主張した。
そして、ポラード教授はこう語ったのだった。
「世界保健機関(WHO)はブースター接種を計画している国々に対し、ワクチン接種を受けられない国々にワクチンを回してほしいと促している。我々のワクチンは、今後6か月間に死亡するかもしれない人々、とくに子どもたちのために役立てたほうがはるかによい」
決算日に「3回接種」をアピールする製薬大手の狙い
しかし、ワクチン開発の製薬大手は、自社のワクチンについて「効果を維持するためには3回目の接種が必要だ」と、相次いで主張し始めている。主要メディアの報道をまとめるとこうだ。
ファイザーは7月28日、ワクチンの有効率が2回目の接種から1週間~2か月後に96.2%でピークを迎え、4~6か月後には83.7%に下がったとの研究結果を発表した。
重症化を防止する効果は半年後も高水準だった。同社は効果を持続させるための3回目の追加接種の必要性を含めて「さらに追跡調査を進める必要がある」とした。
この時に発表した、3回接種することで生まれるデルタ株に対する中和抗体の量がすごい。2回の接種に比べて、最大で100倍になる想定だというのだ。それでも、「3回目の追加接種が絶対に必要だ」と言わないところがミソである。
ファイザーは同時に決算を発表。今年のワクチンの売上高予想を335億ドル(約3兆7000億円)と従来の260億ドルの予想から大幅に上方修正したのだ。これで3回目の追加接種が行われると、どれだけさらに上方修正することになるか。
一方、モデルナは8月5日、やはり決算発表の会見の場で、ワクチンの有効性を維持するために3回目の追加接種(ブースター接種)が「冬のシーズンを前に必要になる」との見解を発表した。
2回目の接種から6か月は有効性が93%になる一方、6か月後からデルタ型などの変異ウイルスに対する「中和抗体」が減少し、予防効果が低下し始めると指摘した。ただし、どのくらい有効率が下がるかは、「追加データを調べて今後発表したい」と、この時は明らかにしなかった。
その代わり、大々的に発表したのは決算内容だった。2021年4~6月期決算は、売上高が前年同期比65倍の43億ドル(約4790億円)、最終損益が27億ドルの黒字(前年同期は1億1700万ドルの赤字)だった。ワクチンは世界50以上の国・地域で緊急使用などが承認されており、21年には8億~10億回分を生産する計画だという。
「3回目の接種が必要だ」という背景には、製薬大手の「思惑」もからんでいそうだが、時間が経つと実際にワクチン効果が薄れてくるのは確かなようだ。日本の病院の研究がある。
インフルエンザのように毎年接種になるかも...
テレビ朝日(8月11日付)「高齢者、接種後半年で抗体が若者の半分に」が、宇都宮市の病院のケースを紹介している。
「栃木県宇都宮市にある病院が新型コロナワクチンを2回接種した職員の3か月後の抗体の量を調査したところ、高齢者の抗体の量が若い世代の半分程度まで減っていることがわかりました。宇都宮病院の研究チームは、ファイザー社製のワクチンを2回接種した20代から70代の病院職員378人について接種から3か月後の抗体の量などを調べました」
すると、すべての世代で時間の経過ともに抗体の量は減っていったが、60歳以上では20代や30代の若い世代より減るスピードが速く、3か月後には若い世代の半分程度となった。この結果を受け、研究チームは、「高齢者は半年おきにワクチンの再接種が必要」という結論に達したという。
医療の専門家は「3回目の接種」についてどうみているのだろうか。テレビ朝日の報道ステーション(8月9日付)で、日本ワクチン学会理事を務める長崎大学大学院の森内浩幸教授に話を聞いている。
――2回の接種でできた抗体は次第に減って、3回目の接種で再び増えるということですが、これはどういった仕組みですか?
森内浩幸教授「免疫系は、記憶のように、一度覚えたことを復習する機会があれば、もっと強い反応を直ちに起こすことができます。ただ、だんだん忘れたころにもう一度復習の機会を設けなければいけません。ワクチンだけでなく、実際に感染した時にも、すぐにこういう反応は起こります。
ただ、その場合には、重症化をふせぐことには間に合っても、感染を防いだり、発病を防いだりするには間に合わないということが起こります。重症化を防ぐためであれば、3回目の接種はそれほど急がなくてもいいですが、発病や感染も防ぐことを目標にするのであれば、抗体量がある程度下がったところで、3回目の接種を検討せざるを得なくなると思います。
――時間が経つと抗体量が減ってくるということは、インフルエンザの予防接種のように、新型コロナのワクチン接種も毎年、必要になってきますか?
森内教授「インフルエンザの場合には、毎年のようにウイルスの姿形が変わってきます。コロナウイルスはインフルエンザほど、簡単に変異するものではありません。インフルエンザのように毎年打たないといけなくなるかは、感染のコントロール如何に関わってくるだろうと思います」
3回目はともかく、毎年は願い下げにしてもらいたいものだ。
(福田和郎)