2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする政府目標の達成に向けて、官民の具体的な動きが始まっている。
炭素を排出しない「脱炭素」の電源や燃料を、いかに拡大できるかがカギとなるが、太陽光や風力といった再生可能エネルギーだけでは到底足りない。そこで新たな「脱炭素」エネルギーとして注目されているのがアンモニアだ。
「石炭火力+アンモニア」でCO24000万トン削減
経済産業省は2021年8月4日、エネルギーに関する国の中長期的な政策指針となる「エネルギー基本計画」の改定案をまとめた。7月末に公表した改定案(素案)を微修正したもので、パブリックコメント(意見公募)を経て10月にも閣議決定する。
J-CASTニュース 会社ウォッチ8月3日付の「再エネの主力電源化を打ち出すも、原発は『当たらず触らず』 思考停止の政府にエネルギー計画は実現可能か?」でも詳報したが、基本計画の主な内容を確認しておこう。
電源構成比率について、2019年度の実績が18.1%、現行計画で30年度に22~24%としている再生可能エネルギーを、30年度に6~38%へ大幅に拡大するのが柱で、現行計画で 56%となっている火力発電は41%へ大幅に削減する。 再エネを倍増する意欲的な目標だが、太陽光発電は、条件が良い場所にはすでに導入されているケースが多く、風力発電も立地できる場所が限られる。海上に風車を設置する洋上風力発電を拡大しようとしているが、日本ではまだ試験段階だ。
そこで30年度の電源構成目標に、いずれも燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない「水素・アンモニア」を新たに1%見込んだ。この中で注目されるのがアンモニアだ。
常温で機体の水素やアンモニアを大量輸送するには、液化して体積を圧縮するのが不可欠。水素はマイナス253度まで冷やす必要があるのに対し、アンモニアはマイナス33度でいいため、実用化にはアンモニアのほうが向いていると期待が高まっている。
官民は具体的な目標として、2030年までに石炭火力発電にアンモニアを20%混ぜて燃やす「混焼」の実用化を掲げる。経産省の試算では、大手電力の石炭火力発電をすべてアンモニア20%の混焼にすると、年間の電力部門が排出するCO2の1割に相当する約4000万トンを削減できるという。
コストの低下が普及のカギ
すでに、東京電力ホールディングスと中部電力が出資する発電会社JERAが実証実験を始めており、2024年度には碧南火力発電所(愛知県碧南市)で約2か月間、混焼を実施することを目指している。
実現すれば、大型の商用発電所では世界初になるという。アンモニアには燃えにくい特性があるため、これをクリアしていく必要がある。その先には50年までにアンモニアだけを燃焼する発電を始める計画もある。
現在はアンモニアのほとんどが工業用や肥料用に使われ、19年の国内消費量は100万トン程度。国内のすべての石炭火力発電所で20%混焼を実施すれば、この約20倍となる約2000万トンが必要になる。
アンモニアを大規模に調達する方法として、水素を原料にして海外で生産し、液化して日本に船舶輸送する方法が検討されている。その水素は水を電気分解したり、石炭や天然ガスから取り出したりして製造することになる。化石燃料から水素を作る過程で発生するCO2は地下に貯留する構想がセットになる。
コスト面も課題だ。経産省の官民協議会で示された資料(2021年2月)によると、石炭火力の20%混焼の場合の発電価格は12.9 円/kWh(キロワットアワー=電力量) と試算され、石炭火力の発電価格10.4 円/kWhの1.2 倍程度、アンモニアだけで発電した場合には、23.5 円/kWh と試算され、いかに引き下げていけるかが普及の大きなカギを握る。
こうした課題を抱えつつ、アンモニアが重要なエネルギー源として注目されることに変わりはない。これをビジネスチャンスととらえ、エネルギー企業や商社が動き出している。
JERAはマレーシアで水力発電の電力によってアンモニアを製造する計画を発表。国際石油開発帝石(INPEX)はアラブ首長国連邦で天然ガスから作った水素でアンモニアを製造する構想を掲げる。伊藤忠商事はカナダで産出される天然ガスからアンモニアを製造して日本に輸送するため、現地企業と共同調査することに合意したと報じられた。(ジャーナリスト 白井俊郎)