男ばかりの工事現場に「紅一点」、新卒で入った施工管理の女性。自分で言うのもナンだが、小柄で容姿端麗、女っぽい声の私。
「若い職人さんたちに『女』を意識されて、よけいな感情がわかないように」
と、ことさら声を低くして無駄話をしないようにしている。
まるで、テレビドラマのヒロインのようだが、
「これから職人さんたちとどう接したらよいでしょうか」
という、お悩み投稿が大炎上している。
「あなた、自意識過剰だよ」
「女である利点を生かしては」
と、賛否激論だ。
「女性の一生懸命さを軽んじるべきではない」
工事現場で「紅一点」で働く女性が、自分の「容姿端麗」に悩む投稿について、女性の働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに意見を求めた。
――まだまだ女性の能力を「容姿」などの偏見なしに見ることが難しい状況にあるようです。「容姿端麗」を意識する投稿者に対して、同じように男ばかりの現場で働く女性たち「自意識過剰だ」「仕事を身に着けること先」といった厳しい意見が寄せられています。
川上敬太郎さん「さまざまな『仕事』経験を有する人が、投稿者さんの課題認識のズレを指摘しているという意味で正論が多いと感じます。しかし、投稿者さんは社会に出たばかりであり、経験と実績を積んで仕事とはどういうものかが肌感覚でわかるようになるまでは、指摘された内容がピンとこないかもしれません」
――投稿者は、若い職人たちに「女」を意識させないよう、わざと低い声で話したり、無口になったり、テレビドラマのようなことをやっていますね。
川上さん「いまの自分に見える範囲で課題を認識し、自分なりに一生懸命なんとかしようともがいている姿勢の表われではないでしょうか。しかし、さまざまな『仕事』経験を有する人から見ると、投稿者さんの姿は幼く映るのだと思います。
一方で、投稿者さんが現状の課題と向き合い、克服しようと一生懸命取り組もうとしている姿勢自体は軽んじられるべきではないと思います。投稿者さんなりに頑張ってみて、トライアルアンドエラーを繰り返し、周りからも意見を聞きながら修正していけばよいのではないでしょうか」
――その一方で、「(男社会では)女であることの利点を生かせ」「いい意味で女を使えば仕事もスムーズにいく」というアドバイスも多いです。こういう真逆に思える意見については、どう思いますか。
川上さん「その考え方が正しいかどうかは賛否両論あるように思います。ただ、投稿者さんが、女性であることをハンディだと考えてしまっているように見えることから、『女であることの利点を生かせ』といった刺激的な印象を受けるアドバイスを通じて、励ましている面もあるように感じます」
「大谷翔平だって『紅一点』で頑張っている」
――一般論として、男ばかりの職場で「紅一点」に近い立場でいる女性は、どう働いたらよいでしょうか。
川上さん「『紅一点』に限らず、自分一人だけが業務未経験者であったり、外国人であったりと、職場で立場の弱い少数派になる可能性は誰にでもありえます。しかし、どのような場面でも、『仕事』という共通言語を通じて会話することが基本です。
野球やサッカーなど、外国語が得意でないスポーツ選手が海外で活躍している事例があるように、言語による会話はうまくなくても期待されるプレー(仕事)ができれば、周囲はその人を理解し、受け入れてくれるはずです。それが『仕事』という共通言語を通じて会話するということです。逆に、どれだけ語学が堪能で言語による会話が上手でも、期待される『仕事』ができなければ評価されることはありません」
――確かに、メジャーリーグの大谷翔平選手は、いまだに通訳が欠かせないのに、「野球」という仕事で大きな実績をあげ、世界中に受け入れられていますよね。
川上さん「はい。いま投稿者さんが気にされている『話し方』や『容姿』などの課題は、海外でプレーするスポーツ選手が語学力のなさを気にしているようなものです。それは期待される『仕事』そのものではありません。『仕事』以外の要素に意識が囚われすぎている点で、課題認識がズレているのです」
――川上さんなら、投稿者にこれからどう働いていけばよいか、どういう点を意識して仕事と向き合えばよいか、アドバイスしますか。
川上さん「まず、自分に期待されている仕事上の成果とは何かを明確にすることです。次にその成果をゴールとして、ゴールから逆算しながら取り組むべきことの筋道を整理すること。その筋道が、期待される『仕事』です。その筋道を実行するにあたり、いまの自分が取り組んでいることと照らし合わせてみると、『できていないこと』が見えてきます。その『できていないこと』に優先順位をつけて、一つひとつ身に着けていく必要があります。
その『できていないこと』の中に、投稿者さんが悩まれている『話し方』も課題として入るのかもしれません。しかし、優先順位の筆頭に来るのかどうかを冷静に見極めていただきたい。『話し方』や『容姿』よりも優先して克服すべき課題があると認識できた場合は、まずはそこに全精力を集中して取り組むことです。施工管理に限らず、『仕事』とは奥が深いものです」
――職人たちとのコミュニケーションはどうしたらよいでしょうか。
川上さん「期待される『仕事』を遂行できているなら、周囲とのコミュニケーションの取り方は自然体でよいと思います。肩肘を張り続けても周囲が認めてくれるわけではありませんし、投稿者さんご自身も疲れてしまうでしょう。
投稿者さんがいま悩んでいることは、後輩の女性社員が入社した際にも、きっと同じような壁として立ちはだかるはずです。後輩たちにどんな道を作ってあげられるのか。投稿者さんがいま抱えている葛藤を乗り越えていく姿そのものが、未来の後輩たちを勇気づけるロールモデルになっていくと思います」
(福田和郎)